平成12年度第1回騒音分科会

資料5

第3章

大気・水・土壌環境のスコーピング
(環境影響評価の項目・手法の選定)の進め方

3-2 騒音・振動・低周波音

  (検討のための資料)

※この資料は、今回の検討のたたき台として作成したものであり、今後の検討により大幅に変更されうるものですので、取り扱いにあたっては充分留意していただくようお願いいたします。

 

3-2 騒音・振動・低周波音

 騒音・振動は環境基本計画において「地域の生活環境に係る問題」に位置付けられている。
 騒音・振動は、各種公害の中でも日常生活に関係の深い問題で、その発生源も自動車、鉄道、航空機、建設作業及び工場・事業場など多種多様である。また、低周波音は、人の耳に聞取りにくい低い周波数の音がガラス窓や戸、障子等を振動させたり、人体に影響を及ぼしたりする現象であり、知見の充実とともに人体等に及ぼす影響に関して詳細な調査研究が進められている。
 また、騒音については、「騒音に係る環境基準」が平成10年9月に改定され、従来の中央値に代わって等価騒音レベルが新しい評価量として採用され、それに伴って一般地域及び道路に面する地域ともに基準値が改定された。以前の中央値は騒音レベルをパーセント時間率で表した統計量であったが、等価騒音レベルは騒音のエネルギー平均値といった物理量であるため、複数の騒音をエネルギー的に合成することができるようになった。また、等価騒音レベルは、環境騒音の大きさを表す測定・評価量として国際的にも広く用いられている。
 ここでは、騒音・振動・低周波の調査・予測・評価手法等に係るスコーピングの考え方について詳述する。

1) 事業特性の把握

 騒音・振動・低周波音に係る事業特性として、以下のような項目について整理する。
 事業計画の内容が固まっていない早期の段階でのスコーピングにおいては、特に工事の実施に係る項目など、詳細の把握が難しい場合があるが、類似事例等を参考に想定される内容について把握する。

  (1) 工事の実施に係る項目

  (2) 施設等の存在・供用に係る項目

 これらの情報は方法書に事業の内容等として記載されるものであるが、記載に際しては一般的な事業内容や、他の影響評価項目に係る事業特性の把握の内容とあわせて、方法書を読む者が事業内容等をイメージしやすいように工夫することが必要である。

2) 地域特性の把握

 地域特性の把握は、基本的に既存資料の収集整理および現地踏査によって行い、必要に応じてヒアリングを行う。

  (1) 調査対象地域の設定

 環境影響評価の調査地域は、「対象事業の実施により環境の状態が一定程度以上変化する範囲を含む地域又は環境が直接改変を受ける範囲及びその周辺区域」(基本的事項)とされている。騒音、振動、低周波音に係る調査対象地域の設定にあたっては、事業区域からの影響範囲に加え、自動車、鉄道および航空機等の移動発生源による影響範囲を考慮しなければならない。なお、調査対象地域の設定にあたっては、「2-2スコーピングの実施手順」に示した通り、項目あるいは調査の対象事物によって調査対象地域が異なることに留意する必要がある。

[1] 騒音発生源等を対象とする場合の調査対象地域の設定

 騒音、振動あるいは低周波音の影響を与える発生源が、工場等の固定発生源である場合、および工事中の建設機械のように限定された地域における移動発生源である場合の調査対象地域は、当該発生源からの騒音、振動、低周波音が一定程度の影響を及ぼす地域を含む範囲とし、発生源の位置を中心に地形等の条件および既往事例における影響範囲を勘案して設定する。

[2] 移動発生源を対象とする場合の調査対象地域の設定

 騒音、振動および低周波音の発生源が、自動車、鉄道等の移動発生源である場合の調査対象地域は、当該移動発生源の移動経路および移動発生源により一定程度の影響を及ぼす地域を含む範囲とする。自動車交通については、当該事業による発生集中交通の移動経路及び周辺地域の環境の状況を勘案して設定するものとする。

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図 3-1 移動発生源を対象とする場合の調査対象地域(例)

  (2) 自然的状況

[1] 騒音の状況

 騒音の測定は、道路交通、鉄道及び航空機騒音について通常国や都道府県・市区町村によって実施されており、これらの測定データを収集・整理する。
 対象とする測定地点は、事業実施区域に最も近隣のものを基本とするが、周辺の複数測定点のデータを収集することにより、調査対象地域の特性を把握することも重要である。また、道路沿道については、対象事業により影響を及ぼすと考えられる路線沿線の測定データを基本とする。
 なお、各データは、交通量等の経年変動を考慮して最新のデータを収集整理する。

[2] 振動の状況

 振動の状況についても騒音と同様の資料が整備されているが、特定の振動源のない状態における環境振動についてはほとんど既存資料では情報を得ることはできない。
 従って、対象地域の振動の状況については、現地踏査を行い、当該地域の特徴を把握しておくことが必要となる。

[3] 低周波音の状況

 低周波音の状況については、特に著しい低周波音発生源が位置する場合を除き、通常地方自治体の苦情統計として整備されている程度である。従って、対象地域の低周波音の状況については、現地踏査を行い、当該地域の特徴を把握しておくことが必要となる。

[4] 地形地質及び地盤の状況

 振動の伝搬特性を規定する地盤特性(埋土、粘土層、ローム層、砂礫層、固結層等)や振動の影響を受けやすい地盤の状況(軟弱地盤の有無)等を把握するために、対象地域の地形地質及び地盤の状況について表層地質図等の既存資料も用いて整理する。

[5] 動物の生息及び生態系の状況

 騒音、振動および低周波音の発生に伴う二次的な影響として、それぞれの影響範囲内に、騒音、振動および低周波音の影響を受けやすく、かつ貴重な動物が分布する場合など、動物の生息、生態系への影響が懸念されるような場合あるいは地域においては、これらの状況についても騒音、振動および低周波音との関連において整理する。
 また、この時点で動物への二次的影響が考えられると判断される場合には、生物の多様性の分野における予測条件として騒音、振動および低周波音の変化を考慮する必要があることを念頭に置く必要がある。

[6] 人と自然との触れ合い活動の場の状況

 騒音、振動、低周波音の影響に伴う二次的な影響として、人と自然との触れ合い活動の場の状況への影響が懸念される場合あるいは地域においては、これらの状況についてもそれぞれの環境要素との関連において整理する必要がある。
 影響が懸念される場合としては、騒音、振動および低周波音の影響が考えられる地域に、工事中の騒音により利用特性の変化が懸念されるキャンプ場等のある場合などが考えられる。

  (3) 社会的状況

[1] 人口及び産業の状況

(ア) 人口の状況

 調査対象地域の人口およびその分布を把握する。

(イ) 産業の状況(騒音、振動および低周波音による被影響対象)

 調査対象地域の産業として、騒音、振動および低周波音の変化の影響を受けやすいと考えられる産業の状況について、その規模、内容、位置等について調査を行う。対象となる産業としては、振動の影響を受けやすい精密加工業などがあげられる。

(ウ) 産業の状況(騒音、振動および低周波音の発生源)

 調査対象地域の産業として、騒音、振動および低周波音の発生源となっている産業の状況について、産業統計等および主要施設の位置等を把握する。

[2] 土地利用の状況

(ア) 土地利用の状況

 主に土地利用図により、土地利用の状況を把握する。場合によって植生図、航空写真等の既存資料や、現地踏査を併用する。

(イ) 用途地域の指定状況

 主に都市計画図により、調査対象地域の用途地域の指定状況を把握する。また、将来にわたる影響検討のため、将来的な土地利用動向の方向性を知るために、各自治体の総合計画等を参照することも必要である。

[3] 交通の状況

(ア) 自動車交通量の状況

 「工事の実施」あるいは「土地又は工作物の存在及び供用」に関して、自動車交通による騒音あるいは振動の影響を環境影響評価の対象項目として選定する場合(重点化により選定しようとする場合、あるいは簡略化により対象項目から除こうとする場合を含む)には、対象となる経路の自動車交通量の状況を把握する。
 自動車交通量の状況は、主要道路については、道路交通センサス(全国道路交通情勢調査)において交通量の測定がなされており、その他都道府県・市区町村で測定を行っている場合もあるため、これらの資料を収集・整理する。
 スコーピング段階における資料整理項目としては、以下に示すような項目があげられる。

 なお、対象とする路線の交通量に関する既存資料のない場合には、現地踏査等により概略の交通の状況を把握しておくことが望ましい。

(イ) 鉄道の状況

 調査地域内の既存の鉄道の走行により騒音、振動の影響が考えられる場合においては、鉄道の種類、交通量、走行ルートについても把握する。

(ウ) 空港の状況

 調査地域内に空港が存在し、航空機の離発着により騒音の影響が考えられる場合においては、空港の種類、航空機の交通量や飛行ルート等についても把握する。

[4] 被影響施設等の状況

(ア) 被影響施設の分布等の概要

 土地利用状況の面的状況把握に加え、騒音、振動あるいは低周波音の影響を受けやすいと考えられる施設の分布(点情報)等について調査を行う。調査対象とする施設は表3-1に示すような施設を考慮する。

表3-1 影響を受けやすいと考えられる施設の例

区 分 施設の例
文教施設 保育園、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、大学、専門学校、各種学校 等
医療施設 病院、診療所、療養所 等
その他公共施設 図書館、児童館、特別養護老人ホーム、福祉施設 等
公園等 児童公園、都市公園 等
産業施設等 牧場、養鶏場 等

(イ) 住宅の配置の状況

 住宅の配置は、土地利用状況や都市計画法に基づく用途地域の指定状況などに加え、現地踏査によりその現況を把握しておくことが望ましい。特に騒音においては住宅の高さ(低層、中高層など)、振動においては構造(木造、RCなど)のおおまかな傾向を把握する必要がある。
 また、将来的な住宅開発等の可能性についても、各地方自治体の土地利用誘導施策等を総合計画等の資料により把握しておく必要がある。

[5] 法令・基準の状況

 騒音、振動に係る法律・基準の状況として、以下の法令・条例等から必要なものを選択し、環境基準、規制基準、目標値等およびその規制地域等を整理する。また、評価にあたって事業者以外が行う環境保全措置等の効果を見込む場合には、当該措置等の内容を明らかにできるよう整理する。

(ア) 騒音に係る法令等

(イ) 振動に係る法令等

[6] 伝搬経路上における地形・人工構造物等の状況

 ここでは、自然的地理条件に加え、騒音、振動または低周波音に影響を与える人工構造物(大規模な建物等)や地下埋設構造物についても把握するものとし、地形図、住宅地図等を基に地形地物の状況を概略把握する。スコーピング段階では、平地、山地の別等の自然地理条件や地上・地下構造物など騒音、振動、低周波音の伝搬に影響を与える条件の有無を確認する。

 

3) 概略踏査

 概略踏査においては、環境影響評価に十分な経験を有する技術者が、対象地域内を踏査することにより、既存資料調査で把握することのできなかった地域の状況や、情報の重合によって生じる地域特性を把握する。
 騒音、振動および低周波音の既存資料は、ほとんどが点情報であり、また情報の密度も低いため、現地踏査によりこれらの点情報の間の地域特性を補完することが必要である。また、土地利用、道路利用及び発生源などの状況を現地で確認することにより、その地域の生活の特徴、道路の利用状況及び発生の状況などを知ることができるとともに、実際に地域の騒音、振動の発生状況を体感(聴く、振動感)することも重要である。
 また、既存資料として用いる測定点については、その周辺の踏査を行い、周辺の事物や発生源の状況など測定の行われている条件等を把握しておく必要がある。
 地域特性把握のための概略踏査では、後述の調査・予測・評価のための地点設定のための踏査を兼ねることができる。この場合には、選定される環境影響評価項目および調査・予測・評価手法について大まかなイメージを持った上で概略踏査を行うことが必要とされる。

 

4) 環境影響評価の項目及び調査・予測・評価手法の選定

  (1) 環境影響評価項目の選定

[1] 標準項目

 省令で定められた標準項目は、対象事業の種類事の一般的な事業内容について実施すべき内容を定めたものであり、事業の内容や地域特性は全て異なるため、常に項目の追加、削除の必要が生じることに留意する。
 環境影響評価法の対象となる各事業毎の騒音、振動に係る標準項目は表3-2に示す通りである。なお、低周波音については標準項目として選定されていない。

表3-2 騒音・振動に係る標準項目 事業の種類

fig2-5-2.jpg (63794 バイト)

[2] 環境影響評価項目の選定

(ア) 影響要因の抽出

 対象事業の事業特性から、事業における環境影響要因を抽出する。影響要因の抽出は、各事業毎に規定された標準的な影響要因(標準項目の表の上欄に掲げられた影響要因の細区分)に対し、事業特性に応じて要因の削除及び追加を行うことにより実施できるが、標準項目を参照せずに影響要因を抽出し、抽出された影響要因を標準項目の区分に従って分類し、要因の削除及び追加を行うこともできる。
 騒音・振動・低周波音に係る影響要因は、表 3-3に示すような騒音の影響把握のための計画諸元や、表3-4に示すような振動の発生源別の条件および、表3-5に示すような低周波音発生源に留意しつつ選定する。

表 3-3 騒音の影響把握のための計画諸元

種   類 主 な 条 件
道路交通騒音 ○ 道路位置、道路構造、車線数、路面状況
○ 時間別交通量、大型車混入率、平均走行速度
○ 騒音防止対策
鉄道騒音 ○ 路面位置、軌道構造
○ 車両の種類 、走行頻度、走行速度
○ 騒音防止対策
航空機騒音 ○ 航空機の種類、発生騒音レベル、離発着回数、飛行場使用時間
○ 飛行ルート、発着角度
○ 飛行場周辺の利用状況
○ 騒音防止対策
工場・事業場騒音 ○ 工場・事業場の種類、位置、規模、騒音発生時間帯
○ 基準位置における騒音レベル、音源のパワーレベル
○ 騒音防止対策
建設作業騒音 ○ 発生源の種類、位置、規模、作業機械の使用時間、騒音発生時間帯
○ 建設作業用地の状況
○ 騒音防止対策

出典:「環境アセスメントの技術」(社)環境情報科学センター編

表 3-4 振動の発生源別の条件

種 類 主 な 条 件
道路交通振動 ○ 道路位置、道路構造、車線数、路面状況
○ 時間別交通量、大型車混入率、平均走行速度
○ 振動防止対策
鉄道振動 ○ 路面位置、軌道構造
○ 車両の種類、走行頻度、走行速度
○ 振動防止対策
工場・事業場振動 ○ 工場・事業場の種類、位置、規模
○ 発生源の種類、位置、規模、振動発生時間帯
○ 振動防止対策
建設作業振動 ○ 発生源の種類、位置、規模、作業機械の使用時間、振動発生時間帯
○ 建設作業用地の状況
○ 振動防止対策
出典:「環境アセスメントの技術」(社)環境情報科学センター編

 

表 3-5 低周波音の主な発生源

種 類 発 生 源
工場施設 コンプレッサ、ブロア、溶解炉、ボイラ等 工場建屋等の振動
交通機関等 航空機、船舶、鉄道(トンネル突入)橋梁(道路)等
その他 発破、ダムの放流

出典:「環境アセスメントの技術」(社)環境情報科学センター編

(イ) 環境要素の抽出

 事業実施区域及びその周辺の地域特性から、環境の変化による影響を受ける環境要素を抽出する。環境要素の抽出は、各事業毎に規定された標準的な環境要素(標準項目の表の左欄に掲げられた環境要素の細区分)に対し、地域特性に応じて要素の削除及び追加を行うことによる。なお、この段階で影響要因と環境要素の関係を厳密に検討する必要はないが、影響要因に全く関係しない環境要素を選定したり、あるいは影響要因があるにもかかわらず関連する環境要素が選定されないなどの事態が生じないように、影響要因をある程度考慮しつつ環境要素を検討することが必要である。

(ウ) 項目の検討

 影響要因と環境要素の関係から、環境影響評価の対象となる項目を選定する。この際に、標準項目の表において空欄となっている部分(標準項目の表に記載された影響要因と環境要素においては関連しないとされている部分)についても、特に影響要因の内容が若干異なることにより、対象とすべき必要が生じる可能性があることに留意する。

(エ) 不必要な欄の削除

 項目として全く選定されなかった影響要因および環境要素を表から削除し、環境影響評価項目選定のマトリクスを完成する。

[3] 項目の削除と追加

 上で抽出された環境影響評価項目と、各事業区分毎に定められた標準項目を比較し、削除された項目及び追加された項目を把握した上で、各々について削除及び追加の考え方に合致していることを確認する。項目の削除及び追加は、以下のように定められた条件に合致していることが必要である。

(ア) 項目の削除を行う場合

一 標準項目に関する環境影響がないか又は環境影響の程度がきわめて小さいことが明らかである場合における当該標準項目

二 対象事業実施区域又はその周囲に、標準項目に関する環境影響を受ける地域その他の対象が相当期間存在しないことが明らかである場合における当該標準項目

(環境事業団が行なう宅地造成事業に係る指針 第六条 5)

 ここで、「影響がないあるいは著しく小さいことが明らかな場合」とは、標準項目の表の上欄に掲げられた影響要因の細区分に相当する行為対象がない場合や、事業規模および内容等から、類似事例に照らして騒音、振動あるいは低周波音の影響が著しく小さいことが明らかであることを立証できることが必要である。 また、「環境影響を受ける区域その他の対象」とは、人の生活環境に係る区域、騒音、振動および低周波音により影響を受ける自然環境の存在する地域などを指し、「相当期間存在しないことが明らかである」とは、少なくとも事業の工事期間、実施期間中にはこれらの対象が存在しないことが、土地利用規制、土地利用誘導施策等により明らかにされている場合と考える。例えば、住民や配慮すべき自然環境のない工業地帯内における騒音の影響等がこれに相当する。 なお、山間地等の住民のいない地域における騒音、振動については、動物に対する影響についても考慮した上で項目の削除について検討する必要がある。

(イ) 項目の追加を行う場合

 第一項の規定による項目の追加は、次に掲げる項目について行うものとする。

一 事業特性が標準項目以外の項目(以下この項において「標準外項目」という。)に係る相当程度の環境影響を及ぼすおそれがあるものである場合における当該標準外項目

二 対象事業実施区域又はその周囲に、次に掲げる地域その他の対象が存在し、かつ、事業特性が次のイ、ロ又はハに規定する標準外項目に係る環境影響を及ぼすおそれがあるものである場合における当該標準外項目

イ 標準外項目に関する環境要素に係る環境影響を受けやすい地域その他の対象

ロ 標準外項目に関する環境要素に係る環境の保全を目的として法令等により指定された地域その他の対象

ハ 標準外項目に関する環境要素に係る環境が既に著しく悪化し、又は著しく悪化するおそれがある地域

(環境事業団が行なう宅地造成事業に係る指針 第六条 5)

(a) 標準外項目に関する環境要素に係る環境影響を受けやすい地域その他の対象

例:

(b) 標準外項目に関する環境要素に係る環境の保全を目的として法令等により指定された地域その他の対象

例:

(c) 標準外項目に関する環境要素に係る環境が既に著しく悪化し、又は著しく悪化するおそれがある地域

5) 調査・予測・評価手法の選定

  (1) 調査・予測・評価手法選定の考え方

[1] 調査・予測・評価手法検討の考え方

 環境影響評価における調査・予測・評価を効果的かつ効率的に行うためには、環境影響評価の各プロセスにおいて行われる作業の目的を常に明確にしておくことが必要である。環境影響評価における最終的な目的は「評価」であることから、スコーピング段階における調査・予測・評価の手法検討では、実際の環境影響評価における作業の流れと逆に、評価手法の検討→予測手法の検討→調査手法の検討の順に検討を進める必要がある。特に、項目や手法の重点化、簡略化を行う場合には、従来の環境影響評価とは異なった調査が必要になったり、あるいは従来行われてきた調査が不必要になったりする場合があるため、スコーピング段階でこの評価、予測、調査の関係について十分な検討が行われていないと、無駄な調査の実施や調査不足による手戻り等が生じるおそれがある。

[2] 評価の考え方

 環境影響評価法における評価の考え方は、大きく下記のア、イの2種類があり、これらのうちアの視点からの評価は必ず行なう必要があり、またイに示される基準、目標等のある場合には、イの視点からの評価も必ず行なう必要がある。
 ア、イの評価を行なう場合には、イの基準等との整合が図られた上でさらにアの回避低減の措置が十分であることが求められる。現状において環境基準を満足していない地域など、イの基準等との整合が図られない場合には、それを明らかにするとともに、アの視点からより一層の回避・低減の措置を検討した上で、双方の評価を併せて総合的に評価することになる。

ア 環境影響の回避・低減に係る評価

 建造物の構造・配置の在り方、環境保全設備、工事の方法等を含む幅広い環境保全対策を対象として、複数の案を時系列に沿って若しくは並行的に比較検討すること、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて検討すること等の方法により、対象事業の実施により選定項目に係る環境要素に及ぶおそれのある影響が、回避され、又は低減されているものであるか否かについて評価されるものとすること。 なお、これらの評価は、事業者により実行可能な範囲内で行われるものとすること。

イ 国又は地方公共団体の環境保全施策との整合性に係る評価

 評価を行うに当たって、環境基準、環境基本計画その他の国又は地方公共団体による環境の保全の観点からの施策によって、選定項目に係る環境要素に関する基準又は目標が示されている場合は、当該基準等の達成状況、環境基本計画等の目標又は計画の内容等と調査及び予測の結果との整合性が図られているか否かについて検討されるものとすること。

ウ その他の留意事項

 評価にあたって事業者以外が行う環境保全措置等の効果を見込む場合には、当該措置等の内容を明らかにできるように整理されるものとすること。

(基本的事項 第二項五(3))

  環境基準等の基準、目標が設定されている騒音、振動については、上記ア、イの評価を併用することとなる。従来の環境影響評価においては、一般的にはイの視点のみによる評価が行われていたため、特にアの視点による評価を行うための調査・予測・評価手法の選定には、手戻り等を生じないように十分な検討を行う必要がある。ウの留意事項においては、事業計画と事業者以外の者が実施する対策等の内容・効果・実施時期がよく整合していることや、これらの対策の予算措置等の具体化の目途が立っていることを客観的資料に基づき明らかにする必要がある。
 騒音の評価においては、対象とする特定騒音について評価をおこなうことが一般的である。しかし、予測地域の地域特性等から、一つの特定騒音のみならず道路騒音と建設工事騒音など複数の特定騒音による複合影響が想定される場合は、複合騒音の影響といった観点からも評価を行なうことが重要である。これについては、各種特定騒音に係る評価量・指標値の違いがあるため、複合騒音の予測・評価方法等に課題は残る。したがって、複合騒音を直接評価することは現在のところ難しいが、個別に各々の特定騒音の影響の程度を把握し、相対的に複合騒音による影響を回避・低減の視点に立って評価することが重要である。
 また、基準等に示されている評価量での評価のみならず、対象とする特定騒音の発生状況(回数、継続時間等)を考慮して、各種評価値(パーセント時間率騒音レベル、等価騒音レベル、騒音レベルの最大値等)による回避・低減の評価を行なうことが望ましい。
 振動の評価においては、道路交通振動の要請限度が閾値(それ以下では人が感じることのできない値)に比較して高いことが現状において大きな課題と指摘されている。また、道路沿道の建物において、建物に伝達した振動が建物の振動特性に依存して増幅され、建物内での振動が感覚閾値以上になるといった苦情が多発しているという指摘もある。このような状況を踏まえ、振動については、感覚閾値等も考慮し評価を行なうことが望ましい。更に、最近では、全身振動評価の国際規格の改訂に伴い、建物内での人の振動に対する応答の評価方法について関係研究機関において検討中である。
 なお、基準、目標が設定されていない低周波音については、「感覚及び睡眠への影響」、「圧迫感・振動感の評価」及び「建具等のがたつきの評価」等の評価指針値が関連研究機関等において検討中である。

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図3-2 騒音に係る調査・予測・評価手法検討の流れ(例)

[3] 調査・予測・評価範囲及び地点の設定

(ア) 調査・予測・評価の対象とする地域・地点の考え方

 基本的事項において、調査および予測の対象となる地域(以下、調査地域、予測地域)・地点(以下、調査地点、予測地点)の範囲は、下記のように定められている。

イ 調査地域
 調査地域の設定にあたっては、調査対象となる情報の特性、事業特性及び地域特性を勘案し、対象事業の実施により環境の状態が一定程度以上変化する範囲を含む地域又は環境が直接改変を受ける範囲及びその周辺区域等とすること

ウ 調査の地点
 調査地域内における調査の地点の設定に当たっては、選定項目の特性に応じて把握すべき情報の内容及び特に影響を受けるおそれがある対象の状況を踏まえ、地域を代表する地点その他の情報の収集等に適切かつ効果的な地点が設定されるものとすること

イ 予測地域
 予測の対象となる地域の範囲は、事業特性及び地域特性を十分勘案し、選定項目ごとの調査地域の内から適切に設定されるものとすること。

ウ 予測の地点
 予測地域内における予測の地点は、選定項目の特性、保全すべき対象の状況、地形、気象又は水象の状況等に応じ、地域を代表する地点、特に影響を受けるおそれのある地点、保全すべき対象等への影響を的確に把握できる地点等が設定されるものとすること。

(基本的事項第二項五(1)、(2))

(イ) 調査地域

 騒音・振動・低周波音に係る調査地域は、調査対象の特性に合わせて設定するものとする。

(ウ) 調査地点

 騒音・振動・低周波音の調査は定点において行われるため、調査地点を設定することとなる。現地調査を実施する場合の調査地点は以下のような項目に配慮して設定し、また既存資料を用いる場合には、以下のような項目の条件に合致することを確認した上で用いる。なお、発生源の周辺に中・高層建築物が存在する場合は、定点における高さ方向の調査点の設定を考慮することが重要である。

  (a) 地域を代表する地点

 環境騒音・振動など、調査対象地域の騒音・振動の代表的な状況を知るための地点として調査地点を設定する場合には、近隣の特定発生源による影響が少ない箇所を選定する。

  (b) 特に影響を受けるおそれのある地点

 事業による影響が特に大きいと予想される地点(工事用車両走行ルート、敷地境界、高層住宅など)は、事業特性や類似事例からおおまかな地点を予想して設定する。なお、設定した地点には、他の発生源等の影響が少ないことを確認する必要がある。

  (c) 特定発生源からの影響を受けている地点

 道路・鉄道等の特定発生源による影響を受けて、既に騒音・振動及び低周波音の状況が悪化していると考えられる地点を選定する。

  (d) 特に保全すべき対象等の存在する地点

 医療施設、文教施設など特に保全すべき対象等の存在する地点を予測地点として設定する場合に、道路など他の発生源の影響により、(a)の地域の代表地点とは異なる状況が予想される場合には、これらの地点を調査地点として選定する。

  (e) 特定発生源からの影響を把握できる地点

 類似の事例による騒音測定結果を踏まえて予測を行う場合、測定は調査地域内で行う必要はないが、事業内容や施設規模の類似性とともに伝搬状況等の類似性も十分に確認した上で特定騒音・振動及び低周波音の状況を把握できる地点を選定する。

(エ) 予測地域

 調査実施前のスコーピングの段階においては、特別な理由のない場合には予測地域を調査地域と同一に設定することが考えられるが、調査を実施した結果から予測地域とする必要がないと判断された場合には、調査地域の一部を予測地域とすることができる。

(オ) 予測地点

 予測地点は、調査地点と同様に環境の状況の変化を重点的に把握することとする場合に設定するものであり、定点での評価を必要としない場合には必ずしも予測地点の設定を必要としないが、調査地点における(b) 特に影響を受けるおそれのある地点や、(d) 特に保全すべき対象等の存在する地点のある場合には、これらの地点を予測地点とすることが考えられる。また、事後調査におけるモニタリング実施地点等にも配慮して予測地点の設定・選定を行うことが望ましい。
 なお、発生源の周辺に中・高層建築物が存在する場合は、定点における高さ方向の予測点の設定を考慮することが重要である。

[4] 予測・評価の対象とする時期の考え方

 予測の対象時期は、基本的に「2-2スコーピングの実施手順」に示す考え方に基づいて設定するが、騒音・振動・低周波音においては、特に工事中と供用時や、異なる発生源からの影響(事業区域からの発生と自動車交通による発生など)に留意して予測対象時期を設定する。
 特に騒音に関しては、異なる発生源がある場合、複合影響を考慮した場合の最大影響となる時点を予測対象時期とすべきと考える。しかし、対象とする複数の特定騒音のレベル表示が異なる場合、複合予測については慎重に行なう必要がある。複合予測が不可能な場合は、各特定騒音の発生状況(時間帯等)を考慮して各々について予測対象時期の設定を行なうなど対処について検討する必要がある。

[5] 調査・予測手法の選定

 騒音、振動の調査方法については、環境基準・個別法・指針・規格等により、ほぼ十分な方法が規定されているが、調査の時期、回数等については、事業特性及び地域特性を考慮して適切に設定することが重要である。
 また、予測手法については、学会等により各種発生源(自動車、鉄道、航空機、工場・事業所等)に対応した汎用性の高い予測式が提案されているが、これらの予測手法を用いる場合においても、予測式を単に適用するのではなく、以下のような点に十分に留意した上で予測手法を選定する必要がある。

 予測手法や予測の元となる原単位等のデータは、既往の環境影響評価書を参考とすることのみならず、新たな手法やデータの有無を確認し、必要に応じてこれらを取り入れることが必要である。特に騒音等の原単位については、常に変化するものであることを念頭に置く必要がある。
 また、予測手法によって予測結果が異なることは当然予想されるため、必要に応じて複数の予測手法の併用についても考慮する。

[6] 手法の重点化・簡略化

 騒音・振動・低周波音において手法の重点化・簡略化を検討する要素としては、以下のようなものが考えられる。

〔手法の重点化を検討する要素〕

(ア) 想定される環境への影響が著しい場合

(イ) 環境影響を受けやすい地域又は対象が存在する場合

(ウ) 環境の保全の観点から法令等により指定された地域又は対象が存在する場合

(エ) 既に環境が著しく悪化し又はそのおそれが高い地域が存在する場合

(オ) 地域特性、事業特性から標準手法では予測が技術的に困難と思われる場合

(カ) 事業者が保全上特に重視したもの

〔手法の簡略化を検討する要素〕

(ア) 環境への影響の程度が極めて小さいことが明らかな場合

(イ) 影響を受ける地域又は対象が相当期間存在しないことが明らかな場合

(ウ) 類似の事例により標準手法を用いなくても影響の程度が明らかな場合

[7] 標準外項目に関する手法の検討

 標準手法には、標準項目に関する調査・予測・評価手法しか記載されていないため、標準項目以外の項目に関する調査・予測・評価手法については、事業者が個別に検討・選定する必要がある。なお、他の種類の事業において標準手法が設定されている場合には、これらの手法を参考にするほか、以下に示すような資料を参考に適切な手法を選定する。

[8] 騒音・振動・低周波音に関する手法の整理

 スコーピング段階では上記の結果を踏まえ、事業者が適切かつ実施可能と判断した手法を選定する。選定にあたっては、調査・予測・評価に関する計画内容として概ね以下の事項について整理する必要がある。
 その際、調査手法、予測手法、評価手法の選定に関する基本的事項及び技術指針の内容に十分留意することが必要である。

(ア) 調査手法

(イ) 予測手法

(ウ) 評価手法