平成13年度 第1回大気分科会

資料2-1

第1章 大気環境の環境影響評価の進め方

1 大気質・悪臭

1-1 総論
1)大気質・悪臭の基本的な考え方
(1)大気質・悪臭の特徴
 大気質・悪臭は、空気(大気)という身の回りに絶えず存在するものを媒介として伝わり、生体や、器物及び動植物に影響を生じる。人への影響・毒性等は物質によって異なるが、急性影響と慢性影響に大別され、状況に応じて急性、慢性両方の視点での検討が必要となる。
 また、大気を媒介し移流・拡散する性質のため、大気質・悪臭の影響はその発生源の形態、移流・拡散の場の状況、大気の動き(風向・風速)に大きく左右され、場合によっては、かなりの広範囲へ影響を及ぼすことが想定されるものである。
 汚染の原因となる発生源の形状には、工場・事業場、換気塔等がそれに該当する固定発生源と、自動車・飛行機・船舶等が該当する移動発生源とに分けられる。発生源の形状により調査対象となる地域を考慮する必要があることは後述するとおりである。
 なお、大気汚染物質には、大気中に排出された後、大気中で化学反応を生じ二次生成する物質も存在するため、調査・予測対象とする物質の性質を事前に把握しておく必要がある。
(2)調査、予測、評価のあり方
 環境影響評価における調査・予測・評価を効果的かつ効率的に行うためには、環境影響評価の各プロセスにおいて行われる作業の目的を常に明確にしておくことが必要である。環境影響評価における最終的な目的は「評価」であることから、実際の環境影響評価における作業の流れと逆に、「評価手法の検討→予測手法の検討→調査手法の検討」の順に検討を進める必要がある。特に手法の重点化、簡略化を行う場合には、従来の環境影響評価とは異なった調査が必要になったり、あるいは従来行われてきた調査が不必要になったりする場合がある。スコーピングは環境影響評価の調査・予測・評価の実施中においても必要に応じて環境影響評価の項目・手法の見直しを行うものである。このスコーピングの基本的な考えを踏まえ、いかなる段階においても、効果的かつ効率的な手法の検討を実施することが肝要である。
 また、大気質に係る環境影響評価においては、評価対象を長期濃度とするのか短期濃度にするのか等によって、予測手法が異なり、また、事業地域における地形条件、気象条件等によっても適用すべき予測手法や必要な条件が異なり、さらに調査手法も異なってくる。したがって、評価の対象を明確にした上で、事業地域の地域特性に合わせた予測手法を選定し、さらにそのために必要な調査手法を選定することが必要である。
 本項では、調査、予測、評価の各段階での基本的考え方を記し、各段階での個別の留意事項について、「1-2 留意事項の解説と事例等」において解説を加える。
2)大気質・悪臭の環境影響評価の方法
(1)大気質・悪臭の調査
 調査の目的は、地域特性の把握における調査(既存資料の収集整理又は現地踏査等)では明らかにならなかった情報を収集して、対象地域の現況をより詳細に把握するとともに、予測・評価において必要な情報を取得することにある。
地域特性の把握において収集整理した大気汚染物質や気象の観測点には、地域的な偏りや観測点密度の問題があるため、事業実施区域及びその周辺における状況を正確に把握することが困難である場合がある。また、最新の情報が必要だが、この情報の入手にある程度の時間が必要であり、利用できない場合もある。さらに、必要とする情報が測定されておらず、新たに必要な項目を測定しなければならないこともある。
 また、調査計画の立案段階及び調査の実施中においても、効果的かつ効率的な手法を検討する必要があることは前述したとおりである。
[1]調査項目の検討
 環境影響評価のために調査の実施を検討する調査項目は、表1-1-1に示すとおりであり、既存資料調査や現地踏査では十分でない情報を補完する。調査項目は、基本的に環境要素として選定した大気質・悪臭の状況及び気象の状況が調査項目として挙げられるが、事業の特性及び規模並びに地域の特性を勘案し、事業の実施が大気質に及ぼす影響を適切に把握し得るよう十分に考慮し、予測・評価を行うために必要な項目を選定する。
 例えば事業の実施に伴い排出が想定される大気汚染物質の測定が、既存調査で十分に実施されていない場合には、現況を把握するとともに予測・評価において必要となるバックグラウンド濃度の設定等のために、その物質の測定が必要である。また、事業実施区域及びその周辺の拡散場が複雑地形であったり、都市域であるような場合には、地上気象以外に上層気象観測*1を含めて、予測のための拡散パラメータ等の条件を設定するための調査を実施する場合もある。さらに、予測モデルの再現性の検証には、現況の発生源の状況*2も必要に応じて調査する必要がある。特にバックグラウンド濃度の将来予測を広域大気拡散モデル等を用いて実施する場合には、発生源の状況把握は重要な調査事項となる。

 項目の選定においては、対象事業の事業特性から抽出された影響要因と地域特性から抽出された環境要素(大気質の場合は汚染物質により区分される)との関係を厳密に検討する必要がある。影響要因と環境要素を把握する上で考慮すべき事項は以下のとおりである。
事業特性 大気汚染物質・悪臭物質の種類・量
発生の過程
発生源の種類・位置 等
地域特性 大気質の環境基準達成状況
環境基本計画等の大気汚染に係る目標値の達成状況
大気汚染防止法に規定する指定地域
NOx法に規定する特定地域 等
 また、標準項目ではなくても事業特性や地域特性から影響が生じることが想定される物質・現象に関しては、当然、予測項目を勘案して必要に応じて調査の実施を検討する必要がある。
 ただし、物質や現象が問題・課題となってはいるが、現状では調査・予測手法、また基準が定まっていない場合もある。調査の内容等に課題が残る項目等の例は、表1-1-2に示すとおりである。これらの課題の残る項目に関しては、調査・予測の対象、観点を明確にするとともに、予測の不確実性を明らかにしたうえで、環境影響評価を実施する必要がある。

【留意事項】
・ *1 上層気象観測(p.1-2-1~1-2-2参照)
 「上層気象観測」は、事業に伴う排出源の位置が高い場合や周辺の拡散場が複雑である場合について実施を検討する。上層気象観測は、観測用の鉄塔や煙突などに測定器を固定して実施する場合と、気球や航空機あるいはその他の遠隔計測技術を利用して行う場合がある。混合層高度や大気逆転層の出現状況等の情報を得、予測条件に反映する。

・ *2 発生源の調査(p.1-2-3参照)
 地域の全ての発生源を対象とした地域総合シミュレーションによるバックグラウンド濃度の設定や化学反応による二次生成過程を経る環境要素の予測、また予測モデルの再現性の検証を行うためには、現況の発生源の状況を調査する必要がある。
 発生源の情報は地域総合シミュレーション行う場合には不可欠な調査事項であり、その入手が不可能な場合には、現況再現によるバックグラウンド濃度の設定は行えない。

・ *3 白煙現象(p.1-2-3~1-2-4参照)
 IPP等の小規模な火力発電においては、循環水による冷却塔を用いた冷却方式が採用される場合が多いが、湿式冷却塔の排気は高温多湿であるため、排出ガスが白煙化する現象が起こり、視認障害等の問題が生じる可能性がある。
 計画地近傍に、高架道路や飛行場が存在する場合、また生活の場となる住宅地や中高層建築物が存在する場合には検討が必要である。

・ *4 ディーゼル粉じん(p.1-2-5参照)
 ディーゼル排気微粒子(DEP)は、ディーゼルエンジン内の不完全燃焼が原因で発生する微粒子であり、沿道の浮遊粒子状物質(SPM)のかなりの部分を占めていると言われている。
 ディーゼル粉じんに含まれる多環芳香族炭化水素には発癌性を有するものがあり、環境ホルモン作用を有するものも明らかになってきていることから、調査指標として多環芳香族炭化水素を採用し、その大気中濃度について把握する方法も考えられる。
[2]調査手法の考え方
 調査手法に関しては、前述したように「評価手法の検討→予測手法の検討→調査手法の検討」の順に検討を進める必要がある。これは、例えば、以下に示すように評価の対象を長期濃度にするか短期濃度にするかによって、予測対象及び調査対象も異なり、予測手法及び調査手法の選定が大きく左右されることになるからである。したがって、評価の対象を明確にした上で、地形条件や気象条件等の地域特性に合わせた予測手法を検討し、その予測のために必要な調査手法を検討することが必要である。
 なお、環境要素としての大気質濃度の測定に関しては、環境基準等に方法が定められているもの等、公定法が定められている場合が多いので、基本的にそれに準じるものとする。
評価の対象 予測対象 調査対象
長期濃度 長期予測(年平均値) 異常年ではない1年間の年間を通した気象条件
短期濃度 短期予測(日平均値、1時間値) 高濃度が想定される気象条件
(ア) 手法の重点化・簡略化*5
環境影響評価の対象とすべき要素について、地域特性の把握の結果、環境上劣悪な地域が存在する場合や、事業計画から想定される影響要因が一般的な事業内容に比べ著しい環境影響を及ぼすおそれがある場合等については手法の重点化を、一方、類似事業の事例などから判断して環境影響が極めて小さい場合等については手法の簡略化を検討する。
なお、手法の重点化・簡略化は、技術的に高度な手法や簡易な手法を用いることだけを対象とするのではなく、調査地点、調査期間・時期等の増減等も含めて検討する*6。
【留意事項】
・ *5 手法の重点化・簡略化
 重点化(重点的かつ詳細に実施する)又は簡略化(簡略化した手法で効率的に実施する)を適用するかどうかを検討する要素としては、以下のようなものが考えられる。
〔手法の重点化を検討する要素〕
 [1]想定される環境への影響が著しい場合
 [2]環境影響を受けやすい地域又は対象が存在する場合
・逆転層など大気汚染物質が滞留しやすい気象条件を有する地域
・盆地、ストリートキャニオンなど大気汚染物質が滞留しやすい地形条件を有する地域
 [3]環境の保全の観点から法令等により指定された地域又は対象が存在する場合
・大気汚染防止法(昭和43年法律第97号)第5条の2第1項に規定する指定地域
・自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法(平成4年法律第70号)第6条第1項に規定する特定地域
 [4]既に環境が著しく悪化し又はそのおそれが高い地域が存在する場合
・環境基本法(平成5年法律第91号)第16条第1項の規定により定められた環境上の条件についての基準(第5条第1項第2号イ及び別表第2において「環境基準」という。)であって、大気の汚染に係るものが確保されていない地域
 [5]地域特性、事業特性から標準手法では予測が技術的に困難と思われる場合
・地形等の条件から複雑な風条件を有する地域
 [6]事業者が環境保全上特に重視したものがある場合
・地域特性・事業特性、ならびに事業における環境保全上の方針等に照らして、事業者が特に環境保全上重要だと判断したものがある場合
〔手法の簡略化を検討する要素〕
 [1]環境への影響が極めて小さいことが明らかな場合
・大気汚染物質の排出量や類似事業の事例などから、環境への影響が極めて小さいことが立証できる場合
 [2]影響を受ける地域又は対象が相当期間存在しないことが明らかな場合
・大気汚染、悪臭により影響を受ける住居、施設等が影響範囲内に現在および将来にわたって存在しないことが明らかな場合には、影響を受ける地域や対象のない区域について詳細な予測計算等を行うより、広域的な観点から汚染物質等の排出量により評価するなどの手法が考えられる。
 [3]類似の事例により標準手法を用いなくても影響の程度が明らかな場合
・類似事業における実測例等から影響の程度が推定可能な場合

・ *6 調査手法の重点化(p.1-2-20参照)
 既存の測定局等が事業計画地周辺に存在せず、大気質の測定が行われておらず、事業計画から想定される影響が一般的な事業内容に比べ著しい環境影響を及ぼすおそれがある場合においては、調査手法の重点化として、環境要素となる大気質の調査を通年で実施することが、調査手法の重点化と考えられる。
[3]調査地域の考え方
 調査地域は、調査対象とする大気汚染物質等の特性や事業内容、気象や地形、土地利用等の地域の特性及び被影響施設(文教施設、医療施設及び住宅等)の配置等を踏まえ、事業の実施による影響が最大となる地点を含む範囲とする。
 一般的には、事業の実施により汚染物質濃度があるレベル以上変化する範囲を含む地域とする必要があり、後述する予測地域を包含した範囲で設定すべきである。この範囲は事業の規模や内容並びに地域特性によって変化するものであり、予測の不確実性を考慮する必要があり、安全サイドの考え方から広めに設定することになる。
 汚染物質の拡散特性から、発生源の種類ごとに概ねの影響範囲を設定することができ、影響範囲の目安は表1-1-3に示すとおりである。また、発生源が固定発生源や工事中の建設機械のように限定された地域における移動発生源の場合と、道路事業の場合の自動車交通やその他の事業の工事用車両のように周辺道路を走行する移動発生源である場合の調査地域の設定の考え方は図1-1-1のように考えられる。

注)( )内は対応する有効煙突高さを示す
出典:「環境アセスメントの技術」(社)環境情報科学センター編

図1-1-1 発生源の性質ごとの調査対象地域の設定方法

[4]調査地点の考え方
 大気質・悪臭の調査は定点において行われることが多いため、調査地点を設定することとなる。現地調査を実施する場合の調査地点は以下のような項目を考慮して設定する。
 また、地域の特性に係る既存資料調査の結果を予測・評価に利用できる場合もあるが、その場合は、既存の測定地点の代表性の確認が必要である。代表性の確認を行うために、「(ア)地域を代表する地点」での現地調査を実施し、既存の測定地点での測定結果と現地調査地点での測定結果との対比等の実施について検討が必要である。
 大気汚染物質の面的な広がりの把握*7を行う場合は簡易測定法を併用し公定法の調査を補完するする事も可能である。
(ア) 地域を代表する地点
 バックグラウンド濃度の設定など、調査対象地域の大気質の代表的な状況を知るための地点として調査地点を設定する場合には、近隣の発生源による影響が少なく、気象条件の安定した箇所を選定する。
(イ) 特に影響を受けるおそれのある地点
 事業による影響が特に大きいと予想される地点(最大着地濃度の予想される地点、敷地境界など)は、事業特性や類似事例からおおまかな地点を予想して設定する。なお、設定した地点には、他の発生源等の影響が少ないことを確認する必要がある。
(ウ) 特に保全すべき対象等の存在する地点
 医療施設、文教施設など特に保全すべき対象等の存在する地点を予測地点として設定する場合に、道路など他の発生源の影響により、(ア)の地域の代表地点とは異なる状況が予想される場合には、これらの地点を調査地点として選定する。
汚染物質排出源周辺に高層建築物が存在し、住民の生活等に供されるているような場合には、鉛直方向の調査地点の設定*8も検討する。
(エ) 既に環境が著しく悪化している地点
 道路、固定発生源などの他の発生源による影響を受けて、既に大気質の状況が悪化していると考えられる地点を選定する。
(オ) 現在汚染等が進行しつつある場所
 近隣の別発生源により現在汚染が進行しつつあると考えられる箇所などは、当該事業による影響とその他の影響を区分するため、事業実施前の状況を把握する。
【留意事項】
・ *7 大気汚染物質の面的把握(p.1-2-8~1-2-9参照)
 大気質の現地調査は、定点で行われることが多いが、事業の実施に伴う大気汚染物質の面的広がりを把握するには、簡易測定法による地点密度の高い調査の実施を公定法による自動計測での測定結果を補完する目的で実施することの検討も必要である。
 現況の工場に隣接して新たな工場を設置する等の際に、現況の工場からの汚染物質の空間的広がりを把握する場合に有用であると考える。また、事後調査においても面的広がりの変化を把握することが可能である。

・ *8 鉛直方向の調査地点の設定(p.1-2-10~1-2-12参照)
 事業の実施により影響を受ける環境要素の測定は、人が通常生活し呼吸する高さを考慮して地上1.5mでサンプリングされる。同様に、予測で設定する予測地点の高さも地上1.5mである場合が多い。しかし、排出源周辺に高層建築物や高架構造が存在し、かつ保全すべき施設である場合には、予測地点高さを高所に設定する必要があり、そのため調査においても同様に高所での把握を要する。
[5]調査期間、時期の考え方
 大気質の状況は、その移流・拡散の場となる大気の状況により大きく左右される。調査時点の設定にあたっては気象条件や大気質濃度の季節変動等、大気状況の変動を十分に考慮する必要がある。特に発生源からの大気汚染物質の排出は時刻、曜日、季節などによって異なるため、短期濃度、長期濃度など求める対象に応じて調査時期・期間を設定する。*9
 現地調査において測定された短期間の情報については、測定年が異常年であったりした場合、その測定値の代表性に疑問が生じる場合がある。測定値の代表性を確認するために、最寄の気象官署等の既存の長期間の観測結果を用いて、現地調査による測定結果と対照する*10等の検討が必要である。
 また、地域の特性に係る既存資料調査の結果を予測・評価に用いる場合は、既存測定点の代表性を確認するために、現地調査において四季あるいは二期(非暖房期・暖房期)に1週間から1カ月間程度のサンプリング観測を行う等の検討も必要である。
【留意事項】
・ *9 予測対象(短期濃度、長期濃度)を考慮した調査内容(p1-2-13~1-2-16参照)
 一般的に大気質の予測では年平均値を予測する長期予測を基本とする。この場合の気象条件としては、代表性を持つ通年の気象データを予測条件とする。また、短期濃度を対象とする場合には、逆転層の発生が多くなる冬季等、高濃度の発生が想定される気象状況を把握できる調査が必要である。
 通常、短期濃度の予測のみを実施することはないため、長期予測に用いる通年の気象観測結果等を利用して短期濃度予測の条件整理を行う。また、ダウンウォッシュやダウンドラフト、大気逆転層の形成等の短期濃度の出現が想定されるような状況が発生し得る場合には、別途検討が必要となる。

・ *10 既存資料調査と現地調査結果の対照(p1-2-17~1-2-19参照)
 現地調査において得られた調査結果はその代表性の確認のため、既存資料のデータと照合し、異常年検定や、調査期間中の大気質濃度の経日変化との対照等の手法を用いて検証を行う。
(2)影響予測
予測とは事業の実施による環境影響を適切に評価できるように、対象地域における大気汚染の状態に生ずる変化を明らかにすることである。「評価手法の検討→予測手法の検討→調査手法の検討」の順に検討を進めた場合には、予測を行う段階においては予測の手法は具体化していることとなるが、改めて調査の結果を勘案するとともに、予測及び評価に関する最新の知見の把握に努める必要があり、その結果、必要に応じて予測及び評価手法の見直しを行う場合も考えられる。予測にあたっては、予測する対象物質、検討の観点を明確にする必要がある。
[1]予測項目の考え方
 項目の選定は、対象事業の事業特性から抽出された影響要因と地域特性から抽出された環境要素との関係を厳密に検討し行う。
 また現状において、予測手法が確立されていない環境要素*11も存在するが、最新の知見等を勘案して予測項目を設定する。
【留意事項】
・ *11 予測手法が確立されていない環境要素(p.1-2-5~1-2-7参照)
 近年問題となっているダイオキシンやその他の環境ホルモンや微量化学物質の中には、発生機構や生成過程が未解明な物質が存在する。また、化学反応により発生する二次生成物質を含む光化学オキシダントや浮遊粒子状物質も依然として問題となる環境要素であるが、浮遊粒子状物質に関しては一次生成物質を対象として、沈降を考慮したプルーム・パフ式による予測が可能である。
 これらの物質には、検討のための調査手法・予測手法等に課題は残るが、事業による影響が存在する場合には検討の対象とすることが望ましい。
 環境基準が設定されている有害大気汚染物質(ベンゼン等)については、技術的には予測は可能であることから、発生原単位等の予測条件に関するデータの蓄積により、今後検討の対象となっていくものと考えられる。
[2]予測手法の考え方
 予測においては、発生源の種類、汚染物質の種類、地形条件、周辺の事物の条件、評価の方法等により、適用できる予測手法が異なる。従って予測手法の選定にあたっては、既往の環境影響評価における事例で用いられている手法を参考とするだけでなく、さまざまな予測手法の適用範囲を十分に検討した上で手法を選定し、選定したモデル等が当該事業に適用できるように調整を行う必要も生じる。なお、モデル等に調整を加えた場合には、その内容及び理由を明確に示すことが必要である。
 また、予測手法によって予測結果が異なることが当然予想されるため、必要に応じて複数の予測手法の併用*12についても考慮する。
 現状において、予測手法が確立されていない環境要素も存在する。最新の知見を把握するために、技術手法については以下に示すような環境影響評価技術に関する図書資料や、学会の論文等、あるいは海外の予測手法(米国EPAの手法等)を参照することも必要である。なお、海外の手法を用いる場合には、我が国とは異なる気象・地形条件等に合わせて作成されたモデルであることに十分留意する必要がある。
・環境アセスメントの技術 (社)環境情報科学センター
・環境影響評価技術シート
・地方自治体の環境影響評価技術指針
【留意事項】
・ *12 複数の予測手法の併用(p.1-2-22参照)
 予測手法を併用することで、手法の持つ予測の不確実性について留意することができ、環境影響の最も大きくなる場合の把握も可能となる。
(ア) 予測の不確実性
 環境影響評価の予測手法選定においては、基本的にはその時点で最新の技術を用い、最も確からしい結果を定量的に導き出す手法を選定することが望ましいが、予測には常に不確実性があることに留意する必要がある。
 予測の不確実性の原因には、予測条件の不確実性、計算に用いるパラメータ等の不確実性、予測式の不確実性等のさまざまなものがあるが、これらの不確実要因が予測結果に与える影響を常に考慮し、予測結果の提示にあたってはその不確実性についても記述するとともに、単一の前提条件、予測手法による単一の結果に固執することなく、必要な場合には複数の予測条件や予測手法による結果を併記するなどの柔軟性が求められる。特に、交通量に代表される交通条件*13のように、それ自体が推計を含む予測条件については、その妥当性や不確実性を十分検証して示す必要がある。
【留意事項】
・ *13 交通条件における予測の不確実性(p.1-2-23~1-2-25参照)
 交通に関わる予測条件だけでも交通量、時間変動率、大型車混入率等と種々の指標があり、それらが個々に不確実性を含むと考えられるものである。
 交通計画の分野においては、種々のモデルによる詳細な交通量の推計手法が存在するが、環境影響評価において予測に用いられてきた推計交通は日ベースの計画交通量であることが多い。また、時間変動率や大型車混入率は、周辺の既存道路等の調査結果を基に設定している。それぞれが、不確実性を持つことに留意が必要である。
(イ) 手法の重点化・簡略化
 環境影響評価の対象とすべき要素について、地域特性の把握の結果、環境上劣悪な地域が存在する場合や、事業計画から想定される影響要因が一般的な事業内容に比べ著しい環境影響を及ぼすおそれがある場合等については手法の重点化を、一方、類似事業の事例などから判断して環境影響が極めて小さい場合等については手法の簡略化を検討する。大気汚染物質排出量に関して、類似事例や周辺事例との比較により影響を予測することも簡略化の一つ*14と考えられる。
 なお、手法の重点化・簡略化は、技術的に高度な手法や簡易な手法を用いることだけを対象とするのではなく、調査・予測地点、調査・予測期間・時期等の増減等も含めて検討する。
【留意事項】
・ *14 大気汚染物質排出量の把握による予測(手法の簡略化)
 周辺に同様の事例がある場合に拡散場の条件は同様と考え、拡散理論式による予測は行わず、当該事業の環境保全措置を加味した大気汚染物質排出量の把握により予測する。この場合は、事例と保全措置を勘案して行う手法であり、手法の簡略化と考えられる。
 ただし、事業の主要な評価項目については、安易に簡略化すると環境影響評価への取組姿勢が問われかねない場合も想定されるので留意が必要である。
[3]予測条件の考え方
 予測条件は、予測項目、予測手法に応じて必要となる項目について、事業特性及び地域特性を考慮して設定することとなる。大気質の予測において考慮すべき現象(気象・地形等)は表1-1-4に示すとおりである。
 予測条件(パラメータ)の設定は、予測の不確実性を含むものであることに留意が必要である。既往の環境影響評価において、一般的に用いられるプルーム式及びパフ式による予測を行う場合の主な予測条件は表1-1-5に示すとおりである。これらのうち事業特性から設定される排出条件は比較的不確実性が小さいと考えられるが、気象条件等については、長期にわたって連続的に観測されているデータを入手する必要があるとともに、地域的及び期間的な代表性の検証が必要である。
 拡散パラメータに関しても、一般的にPasquill-Giffordの拡散パラメータが用いられるが、この拡散パラメータは平坦な草地における地上発生源からの拡散実験によって作成されたものである。したがって、高煙源の拡散や都市域のような粗度の大きな地域に適用する場合には、Pasquillの安定度分類と実際の安定度との対応について注意する必要がある。
 また、予測結果を大きく左右するものに、バックグラウンド濃度の設定が挙げられる。従来、(環境基準が設定されている環境要素については)環境基準の達成が絶対と認識されてきたような状況も見受けられた。そこでは、自治体等が発表した大気質濃度の将来低減目標値を、そのまま将来のバックグラウンド濃度に採用し、結果的に事後調査での調査結果が予測結果と大きく異なる状況となっている例も存在する。自治体等における大気質濃度の将来目標値は削減施策が計画とおりに施行された場合の結果であり、これ自体に大きな不確実要素を含むものである。このような場合は、現況及び過年度の一般大気測定局の経年的な変動を踏まえ、5~10年間の平均値からバックグラウンド濃度を設定するなど幅を持った予測の実施も必要と考える。
 評価とも関連するが、従来は基準又は目標との整合を第一に考える評価を前提としていたこともあり、前述したような不自然な条件設定も見られた。如何に条件を設定しても避けられない予測の不確実性は付随することから、予測の考え方、予測条件の考え方の段階で、実現性の乏しい状況を想定した条件設定*20は避ける必要がある。

【留意事項】
・ *15 地形条件(複雑な拡散場)(p.1-2-26~1-2-29参照)
 従来の環境影響評価においては、拡散場が複雑地形であるが、計算においては平坦地で用いられる正規プルーム・パフ式により予測計算が実施されている場合があり、この点について住民意見等において指摘されている場合がある。
 拡散が地形の影響を受けるような状況の場合には、特に留意が必要である。

・ *16 排出係数(p.1-2-30~1-2-32参照)
 汚染物質排出量算出の原単位となる自動車等からの汚染物質の排出係数は、排出ガス規制、車種構成や走行量(走行台数×走行距離)を加味して設定されており、社会状況等の変化に伴い、将来年次の設定値が外れる可能性がある。そのため、文献・資料等の排出係数を用いる際には、算定の前提となる諸設定が、予測の対象となる地域や路線へ適用できるものかを考慮する必要がある。

・ *17 バックグラウンド濃度(p.1-2-33~1-2-36参照)
 事業実施に伴う将来の大気質濃度において、事業による付加分が占める割合は、バックグラウンド濃度が占める割合に対して小さい。バックグラウンド濃度の設定は、大気質濃度の将来予測において非常に大きな比重を持つため留意が必要である。
 バックグラウンド濃度の設定においては、既存資料の経年推移を考慮して設定する場合や現地調査結果を用いる場合がある。そのほか、自治体の将来目標値等により設定される場合もある。
 自治体等が想定する大気環境の改善の実現性の検証は、現実には困難であると考えられるため、安全サイドの考え方では、現況の値をもとにバックグラウンド濃度を設定するのが妥当であると考えられる。
 また、大規模な固定煙源や面発生源のように予測の対象地域が広範囲(数kmから数10km)に及ぶ場合や計画路線が大気質状況の異なる複数の地域をまたがって計画される場合には、予測地点によって一律ではないバックグラウンド濃度の設定を検討する。
・ *18 有効煙突高(p.1-2-37~1-2-38参照)
 大気汚染物質を含む排出ガスが、排出される環境大気より高温であったり、排出ガスが上方向に速度を持っている場合には、排出されたプルームは実排出口高さ(H0)よりも上昇してから移流・拡散される。その上昇分(ΔH)を実排出口高さに加えたものを有効煙突高さ(He)という。上昇分(ΔH)の算出は、種々の算定式があるが、事業特性、排出形態等を考慮に入れて、妥当な算定式の採用する必要がある。

・ *19 拡散パラメータ(p.1-2-38~1-2-39参照)
 平坦でない場合や上層の拡散場における拡散パラメータについては、Smithの地表面粗度を考慮した粗度補正の方法に基づくPasquill-Giffordの拡散場パラメータや電力中央研究所が国内の火力発電所を対象とした拡散実験結果から、最大着地濃度と有効煙突高さの関係から設定した拡散パラメータ等がある。また、道路沿道においては、道路近傍における拡散実験等をもとに、自動車の走行による攪拌混合を初期拡散幅として考慮し、道路近傍において安定度と拡散パラメータとの関係が明確でないことを根拠とした安定度によらないパラメータが利用されている。

・ *20 実現性の乏しい状況と想定した条件設定(p.1-2-39参照)
 予測条件の設定において、客観的に考えて明らかに現実と異なる以下に示すような状況の想定等を行っている場合がある。当然、予測においてそのような設定はすべきではない。
 1.現況で道路網の整備が計画どおりに進んでいないにも関わらず、将来にはすべてが計画どおりに整備されるとした状況
 2.大気質濃度が大幅に改善されるような目標値によるバックグラウンド濃度の設定
 3.道路供用時の走行速度を一律法定速度とする設定
[4]予測地域の考え方
 予測地域は、原則として事業の実施により大気汚染物質濃度があるレベル以上変化する範囲を含む地域である。この範囲は事業の規模や内容によって変化するものであり、予測の不確実性や地域特性を考慮する必要があり、安全サイドの考え方から広めにとることになる。調査地域、調査地点の考え方と同様に、排出源が固定発生源や建設機械の場合と、道路を走行する車両のような移動発生源の場合には影響の範囲が異なるため予測地域・予測地点の考え方も異なる。
 発電所や清掃工場等の固定発生源の場合は、排出条件の設定を施設の稼働条件により行うことが多く、予測条件の想定がある程度可能であることから、代表的な気象条件及び煙源条件を用いて、一般的な拡散式(プルーム式)によって試算し、最大着地濃度が出現する地点を把握し、この地点を十分に含む範囲を予測地域の目安とする。また、自動車等の移動発生源の場合は、影響は比較的周辺に限られることから、道路沿道の数百mから数kmの範囲が予測地域の目安とされる。このように、汚染物質の拡散特性から、発生源の種類ごとに概ねの影響範囲の目安を設定することができ、その目安は表1-1-3に示したとおりである。
 また、既存の類似施設からの大気汚染物質の排出量と事業特性から想定される大気汚染物質の排出量との比較により、固定発生源からの予測を行う場合には、特に予測地域を定めないことも考えられる。
 予測地点については、調査地点と同様に環境の状況の変化を重点的に把握する場合に設定するものであり、定点での評価を必要としない場合には必ずしも予測地点の設定を必要としないが、調査地点における(イ)特に影響を受けるおそれのある地点や、(ウ)特に保全すべき対象等の存在する地点のある場合には、これらの地点を予測地点とすることが考えられる。また、予測地点の設定・選定に際しては、事後調査や環境監視計画等にも配慮するのが望ましい。
 なお、予測地点における鉛直方向の高さは通常1.5mで設定されるケースが多いが、道路沿道やばい煙発生施設周辺に高層建築物が存在しているような場合には、利用形態に対応して鉛直方向を考慮に入れた地点の設定が必要な場合がある。
[5]予測時期の考え方
 予測時期は、事業の実施に伴う発生源の活動を時系列的に検討して決定するが、大きくは、事業の工事中と供用時に二分される。
(ア) 工事中
 工事中については、工事計画全体にわたって時系列的に工事量の変化、工事区域の変化等を把握し、工事全体からの汚染物質排出量が最も大きくなる時期(あるいは負荷の大きい建設機械の稼働台数が最も多くなる時期)とする。(図1-1-2 イ参照)
 また、工事期間が非常に長い場合や、工事中に工事用車両走行ルートの変更が考えられる場合には、工事の中間的な時期における予測の実施についても検討する
長期予測の場合には年平均値を予測するため、以下のような予測対象時期の設定が考えられる。
・一年間の建設機械の稼働台数の総計が最大となる一年間
・一年間の建設機械からの汚染物質排出量が最大となる一年間
短期予測の場合も、汚染物質排出量が多い時期という考え方は同様で、以下のような設定が考えられる。
・一日の建設機械の稼働台数の総計が最大となる状況
・一日の建設機械からの汚染物質排出量が最大となる状況

図1-1-2 予測対象時期の考え方

(イ) 供用後
 供用後については、施設の稼働や車両の走行が定常状態となる時期とする。(図1-1-2 イ参照)
 また、事業が長期にわたって段階的に実施される場合や中間段階において環境の状況が大きく変化する場合には、それらの経年変化を把握し、負荷の最大時等中間的な適切な時期に予測を行う。(図1-1-2 ニ参照)
 最終的な供用時ではなく、途中段階で負荷が大きくなる場合には以下のようなものが挙げられる。
・ 発電所等における施設の更新計画に際して、新規施設の部分的稼働による影響と既存施設の影響とが同時期に発生し、その程度が最終的な定常状態よりも大きくなる場合
・ 計画道路の段階供用に伴い、中間供用時における交通量が全面供用時における交通量より大きくなる時期がある場合
(ウ) その他
 事業によっては工事期間と供用期間が重複する場合が想定される。このような場合においては、工事の実施にかかる予測の時期は、工事による負荷と供用による負荷の合計が最大になる時点とする。(図1-1-2 ロ)
 また、環境への影響が最大になる時点は、必ずしも負荷量が最大になる時点ではなく、例えば工事期間中に特に保全すべき施設等が新たに出現する場合等は、これらの周辺環境の状況を勘案して予測時点を設定する。(図1-1-2 ハ)
 上記のように、段階供用を行う事業に関して複数の予測時期を設定する場合がある。さらに、個々の予測時期に挟まれた期間に排出ガス規制が導入されること等の予測条件を変化させる要因が明らかな場合には、それらを考慮して、予測時期毎に予測条件の設定を行う。
(3)評価の考え方
 環境影響評価法における評価の考え方は、大きく以下のア、イの2種類があり、これらのうちアの視点からの評価は必ず行う必要があり、またイに示される基準、目標等のある場合には、イの視点からの評価も行う必要がある。
 ア、イの評価を行う場合には、イの基準等との整合が図られた上でさらにアの回避低減の措置が十分であることが求められる。
ア 環境影響の回避・低減に係る評価
 建造物の構造・配置の在り方、環境保全設備、工事の方法等を含む幅広い環境保全対策を対象として、複数の案を時系列に沿って若しくは並行的に比較検討すること、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて検討すること等の方法により、対象事業の実施により選定項目に係る環境要素に及ぶおそれのある影響が、回避され、又は低減されているものであるか否かについて評価されるものとすること。
 なお、これらの評価は、事業者により実行可能な範囲内で行われるものとすること。
イ 国又は地方公共団体の環境保全施策との整合性に係る評価
 評価を行うに当たって、環境基準、環境基本計画その他の国又は地方公共団体による環境の保全の観点からの施策によって、選定項目に係る環境要素に関する基準又は目標が示されている場合は、当該基準等の達成状況、環境基本計画等の目標又は計画の内容等と調査及び予測の結果との整合性が図られているか否かについて検討されるものとすること。
ウ その他の留意事項
 評価に当たって事業者以外が行う環境保全措置等の効果を見込む場合には、当該措置等の内容を明らかにできるように整理されるものとすること。

(基本的事項 第二項五(3))

 環境基準等の基準、目標が設定されている大気質については、上記ア、イの評価を併用することとなる。従来の環境影響評価においては、一般的にはイの視点のみによる評価が行われてきた。環境影響評価法に基づく環境影響評価では、アの視点による評価が前提となる。事業の実施による環境影響をゼロにすることはできないが、如何に環境に対して最善の計画となっているか、またそのためにどこまで検討を重ね、配慮してきたかが理解できる内容の環境影響評価が望まれる。
 ウの留意事項においては、事業計画と事業者以外の者が実施する対策等の内容・効果・実施時期がよく整合していることや、これらの対策の予算措置等の具体化の目途が立っていることを客観的資料に基づき明らかにする必要がある。
 また、環境基準は環境保全上維持されることが望ましい基準として定められる行政上の目標となるべきものであり、環境汚染防止上の規制値とは概念上異なる。環境基準は幅広い行政の施策によって達成を目指すものである。それに対し、排出基準や総量規制は、環境基準達成に向けて講じられる諸施策と考えられる。このような背景を理解したうえで、事業による環境影響を適切に評価する必要がある。
[1]回避・低減に係る評価の考え方
 回避・低減に係る評価は、事業者による環境影響の回避・低減への努力・配慮を明らかにし、評価するものであり、その手法の例として、複数の案を時系列に沿って若しくは並行的に比較検討する方法や、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて検討する方法が基本的事項に挙げられている。また、現況よりも環境を悪化させないことで評価する方法等も考えられる。
 回避・低減に係る評価において最も留意すべき内容は、現状において環境基準を達成していない地域など、イの視点における基準等との整合が図られない場合*21において、アの視点からより一層の回避・低減の措置を検討した上で、双方の評価を併せて総合的に評価する場合の考え方である。
 このようなケースにおいては、基準等の整合が図られない内容を明らかにし、回避・低減の措置による事業の実施にともなう付加分の低減の程度(低減率等)、現況の大気質状況の変化の程度等から、その回避・低減の措置に関して実行可能なより良い技術が取り入れられている否かを検討し評価を行う*22。
[2]基準又は目標との整合に係る評価の考え方
 大気質については、環境基準等の基準・目標が設定されている環境要素を予測・評価項目とする場合が多いため、従来の環境影響評価においては、一般的に基準との整合についての視点による評価が実施されてきた。そのため、既に現状の大気質の状況が環境基準を達成していない地域での事業の場合、この基準との整合を図ることが環境影響評価において絶対として取り扱われてきたことは否めない。そのため、将来のバックグラウンド濃度を小さく見込んだことによる問題等が環境影響評価の課題として取り上げれられてきた。
 現状において基準が達成されていない状況においては、事業者が実行可能な範囲での環境保全のための措置による基準の達成は困難な状況が容易に想定される。従って、この基準又は目標との整合に係る評価においては、基準との整合が図られない場合は、それを明らかにすることがまず重要である。それらを踏まえて前述の回避・低減に係る評価を実施していくことが必要なのである。
[3]その他の留意事項
 事業者以外が行う環境保全措置の効果を見込む場合*23においては、事業計画と事業者以外の者が実施する対策等の内容・効果・実施時期がよく整合していることや、これらの対策の予算措置等の具体化の目途が立っていることを客観的資料に基づき明らかにする必要がある。
【留意事項】
・ *21 基準等の整合が図られない場合における回避・低減に係る評価(p.1-2-40~1-2-42参照)
 地域の特性の調査及び現地調査の結果から、事業実施区域及びその周辺における大気質の状況が環境基準を満足していない場合、そのような地域の特性において事業を実施する場合の予測・評価においては、下記の内容について十分な検討が必要である。
 1.既存調査結果と現地調査結果との対照による地域の大気質の状況の把握
 2.将来におけるバックグラウンド濃度の設定
 3.回避・低減措置の効果の把握

・*22 実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かの検討(p.1-2-43参照)
 実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かの検討においては、客観的にその評価の妥当性を判断するために、事業の実施に伴い導入可能な技術にはどのようなものがあり、当該事業において採用したものは何なのかの情報を明示する必要がある。また、それらの技術による効果を可能な限り定量的に示すとともに、採用できなかった技術がある場合には、その理由を明確に提示することも必要と考えられる。

・*23 事業者以外が行う環境保全の措置を見込む場合(p.1-2-43~1-2-44参照)
 事業者以外が行う環境保全措置の効果を見込む場合には、その対策が具体化の目処がついていることについて明らかにする必要がある。
 事業者が同じであれば、計画地近傍の対象事業以外の事業において環境保全措置を実施しその効果を加味することも可能である。
 また、確度の高い対象事業以外の事業による対策による効果、また環境影響を総合的に予測・評価できる場合には、複数の事業による複合的メリットが生じることが考えられる。例えば、道路事業で、複数の道路整備により結果的に道路網が整備される場合には交通流の円滑化、移動時間の短縮等の利点が生じる。それらのプラスの効果も加味して評価を実施することも検討する。