平成12年度 第1回検討会
議事資料

資料-3

第1章「景観」に関する調査・予測・評価手法について

(検討のための資料)
この資料は、今回の検討のたたき台として作成したものであり、今後の検討により大幅に変更され得るものです。取り扱いには十分留意していただきますようお願いいたします。
また、この資料の中には具体的な作業イメージについての理解を得るため、(財)2005年日本国際博覧会協会より、環境影響評価の過程で得られたデータの一部を提供いただき、調査及び予測結果の表示例を作成しています。しかし、事業内容は架空のものであり、データにも相当程度架空のデータを織り交ぜて作成したため、表示例では博覧会事業の環境影響評価とは全く異なる結果が示されている点に十分留意くださいますようお願いいたします。

「景観」に関する調査・予測・評価手法について

1.アセスメントにおける「景観」の基本的な考え方

1)アセスメントにおける「景観」の捉え方

図1-1 「景観」項目における調査・予測・評価の枠組みの概念と作業手順
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2)「景観」項目における環境要素の区分と影響の種類

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3)「景観」項目における価値の骨格をなす2つの価値軸

4)影響の種類と価値軸及び評価項目

 「景観」項目におけるアセスメントでは、事業の実施に伴う影響による景観の価値の変化を調査、予測、評価することになるため、影響を捉える2つの側面である眺望景観と囲繞景観のそれぞれに対して、普遍価値と固有価値の2つの価値軸に照らして認識の状態を把握する必要がある。
実際の価値の認識は、個々の人間が無意識のうちに多様な評価項目に対する複雑な指標の重回帰分析を行った結果として認識されるが、アセスメントにおいては重要な評価項目に絞込んだ上で代表的な指標を用いた単回帰分析を行うといった手法をとるのが現実的である。
 しかし、一方で、全国一律の画一的な評価にとどまってきた従来のアセスメントの問題点を見直し、人と自然との豊かな触れ合いの確保に向けて機能させるためには、個々の案件ごとにできる限り幅広い観点から地域の特性に合った評価項目の選定に努める必要がある。
既存の知見から眺望景観と囲繞景観のそれぞれの価値の認識において、関わりが深いと判断された主要な評価項目例を、普遍価値と固有価値の2つの価値軸に区分し、表1-1に整理して示した。
 個々の案件では、表を参考としながら、眺望景観と囲繞景観におけるそれぞれの評価項目を、普遍価値と固有価値の2つの価値軸に照らして選定することとなる。ただし、重要な評価項目が複数存在していたり、評価項目に判断上の重みの違いがあったり、既存の知見では抽出されていないような重要な評価項目が別途存在する場合もあるため、ケースバイケースで十分検討し、重要な観点が抜け落ちないよう留意する必要がある。

表1-1 影響の種類と価値軸及び評価項目別例
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図1-2 眺望景観と囲繞景観の概念模式図
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2.調査・予測・評価の手順

1)調査・予測・評価の手順と今年度の検討範囲

2)調査の考え方

3)予測の考え方

4)保全措置検討の考え方

5)評価の考え方

図1-3 景観項目における調査・予測・評価の手順
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3.調査手法

1)眺望景観の把握

眺望景観の調査はスコーピング手続きを通じて抽出された、視覚的変化の可能性のある範囲内に存在する主要な景観資源、眺望点、眺望景観を対象として行い、現況の眺望景観が有する普遍価値と固有価値を把握する。

(1)調査・予測・評価対象となる眺望景観の状態把握

 

スコーピング段階で抽出された主要な「景観資源」「眺望点」「眺望景観」を対象とし、現況における眺望の状態を把握するに先立ち、各要素毎に以下の手順で以後の調査、予測、評価の対象となる眺望景観を特定した上で、その眺望の状態と眺望点の利用の状態を把握する。
 この段階での調査方法は表1-2に示すとおりであり、地形・地被・地物に関する数値データの取得による数値地形モデル等の作成とそれらを用いた視認性解析の実施、現地踏査による目視確認、写真・ビデオ等の映像情報の取得及びカウント調査・ヒアリング調査・アンケート調査等を行う。
 特定の場所から特定の対象を眺める眺望点の場合には、シーンとしての眺望景観が認知されるが、連続した眺望点群から不特定の対象を眺める場合にはシークエンスとしての眺望景観が認知されることとなる。このような場合には、連続した眺望点群を対象とした視認解析や現地踏査による目視確認を行うことにより、最も影響が大きいと判断される眺望点を抽出し、シーンとしての眺望景観に代表させるのが一般的である。
 また、眺望の状態把握に当たっては、同じ対象を同じ場所から眺めた場合でも、短期的には天候や季節により、長期的には自然や人の営みにより変化する動的なものである点に留意し、写真撮影を四季毎に行ったり、過去の映像情報を収集し現況と比較するなど、変化状況の把握が重要である。
 なお、視認性解析及び現地踏査による目視確認の結果、眺望内に事業地及び事業によって出現する工作物が含まれる可能性が極めて低いと判断された場合には、この段階で調査・予測・評価の対象から除外することも可能である。

表1-2 眺望景観の状態に関する調査の項目・内容・方法

調査項目 調査内容 調査方法
利用の状態 利用者数 眺望点として利用されている場所の利用者数、季節変動、年変化等を把握する。 ・現地踏査
(目視確認、写真・ビデオ等映像情報の取得)

・ヒアリング調査

・アンケート調査
(地元住民、地元有識者、学識経験者、利用者、その他関係者等)

・カウント調査(利用者等)

・資料調査
(空中写真の収集・撮影、過去の映像情報の収集、観光関連図書、交通量、利用統計、人口データ等既存関連データ等の収集、郷土史、既存文献・研究論文等の収集)

・数値地形モデルの作成
利用者の属性 眺望点として利用している人の年齢層、グループ構成、発地、頻度等を把握する。
利用形態 眺望目的の利用の優先性や利用上の特徴、眺望以外の利用の種類等を把握する。
眺望の状態 視覚画像 写真やビデオ等の映像データとして記録することにより眺望景観の状態を把握する。
地形・地被・地物データ 調査対象地域内の現況における標高データ、植生(樹種・樹高等)データ、工作物の位置・規模・構造データ等を把握する。
眺望対象 眺望景観の中で主題となる特定の眺望対象の有無を確認し、主要な眺望対象と調査対象とした景観資源や事業地の位置関係等を把握する。
眺望方向・視覚 眺望が開けている主な方向を方位で、その広がりを角度で確認し、その中での主要な眺望対象、調査対象とした景観資源、事業地の位置関係を把握する。
景観構成 眺望景観の近景・中景・遠景の主体を成している地形・地被・地物の状態と特徴的な素材の有無等を確認し、その中での主要な眺望対象、調査対象とした景観資源、事業地の位置関係を把握する。
視認性解析 特定の眺望点からの可視領域や複数の視点群からの被視頻度解析等を行い、特定の眺望点から見えている場所や多くの視点から見られやすい場所を確認し、調査対象とした景観資源や事業地の視認性を把握する。

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<眺望景観の状態把握例>

No. [1] 視点名称 K団地

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(2)評価項目の設定と指標の選定

 上記の手法で調査・予測・評価の対象となる眺望景観の利用の状態と眺望の状態を把握した上で、対象となる眺望特性を把握するに先立ち、当該地域の眺望の評価にとって重要な観点は何かを個別案件ごとに検討しなければならない。
 検討に当たっては、表1-1を参考としながら、大きくは普遍価値と固有価値のそれぞれの価値軸に相当する評価項目の中から当該地域において重要と思われる評価項目を設定する。
 次に、設定した評価項目と関わりが深い(相関が高い)代表的指標を、既存の知見や研究例等を参考としながら選定し、各眺望ごとに指標に着目した解析を行う。ただし、評価項目と指標との関係が明らかになっていないものに関しては、直接、価値に関する認識把握や感覚量測定のためのヒアリング調査や評価実験等を行う必要があり、特に固有価値に区分される評価項目の多くは、評価項目と指標との関係が不明確なものが多いことから、これらの調査が必要となる。
 眺望の評価項目と関わりが深い代表的指標について、既存の知見及び研究例等により明らかにされているものは表1-3に示したとおりであり、それぞれに対し指標把握や価値に関する直接的な情報取得のための調査・解析方法、参考となる文献・研究例等も表中にあわせて示した。

(3)眺望景観の価値の把握

 個別案件においては、表1-3を参考としながら、先に設定した評価項目に対応した指標把握及び価値に関する直接的な情報取得のための調査・解析を実施し、調査・予測・評価の対象として状態を把握した眺望景観ごとに調査結果を取りまとめ、各価値軸に対応する眺望景観の価値の状態を分かりやすく整理して示す。
 なお、これらの価値の把握については、全国一律の絶対的な基準値(判断が分かれる閾値に関する一般解)が既存の研究等で明らかにされている指標は大変少なく、大半は地域特性によって異なるものであることから、調査対象とした眺望景観間での相対的比較を基本とし、既存の研究例等のデータについては参考値として示すなどして、個別案件ごとに現状における価値ができる限り正確に理解されるよう、ケースバイケースで表現方法を工夫していく必要がある。

表1-3 眺望景観の価値に関する評価項目と指標及び調査方法・参考文献等

価値軸 評価項目 代表的指標 調査・解析方法 参考文献・研究例([ ]内の数字は参考資料に対応)



自然性 ・緑視率

・人工物の視野内占有率

・映像情報を用いた物理量測定

・映像情報を用いた感覚量測定

・現地での物理量測定感覚量測定

・数値地形モデルの作成による可視解析、地形解析

・地形図データからの読み取り

・現地踏査による目視観察映像情報取得

・アンケート調査

・ヒアリング調査

・カウント調査

森林景観の自然性に関する価値の把握手法[1-10]
水辺景観の評価と水のきれいさ、河畔の動植物等の自然条件との関連性[1-12]
人工物の視野占有率に応じた景観印象の変化[1-22]
法面の視野占有率と視覚的印象の関係性[1-23]
緑視率、樹林内の見通し距離等に応じた樹林景観の評価の変化[1-46、47]
法面の植被状況による景観に対する評価の変化[1-48]
眺望性 ・視界量(可視空間量・遮蔽度)

・視野角

・視野構成(仰・俯瞰、近・中・遠景の構成)

可視空間量、視野構成等の眺望性に関する基本的な解析・把握手法[1-7]
視野構成における水辺の評価(眺望利用価値)[1-13]
河川景観における典型的な構図、視点と視軸の関連性[1-16]
一対比較法、順位法を用いた森林景観の評価[1-30]
被験者による写真撮影による好ましい構図、基調となる景観要素の分析手法[1-31]
被験者によるビデオ撮影による構図、基調となる景観要素の分析手法[1-32]
人間の視覚の基本特性(視野角、熟視角)[1-41]
利用性 ・利用者数

・利用のしやすさ

・利用者の属性の幅

森林景観のレクリエーション的利用価値の把握手法[1-10]
水辺の構造物の形態の違いと視点場としての利用快適性の関連性[1-12]
水辺景観における水辺へのアクセス性による評価の変化[1-13]
主題性 ・主要な興味対象の有無

・興味対象の見込み角(興味対象の水平・垂直方向の見えの大きさ)

・興味対象との間に介在する地形・地被・地物

・視軸の明確さ

主題性に関する基本的な解析・把握手法[1-7]
想起アンケート法、自由描写法による地域の景観の主題の把握[1-1、34、35]
アイマークカメラを用いたシークエンス景観における注視対象の把握[1-49]
独立峰山頂に対する仰角に応じた主題性の変化[1-51]
視点から視対象への俯角に応じた主題性の変化[1-52]
力量性 ・視距離

font size="2">・見えの面積

・仰角

・奥行き感

・視距離/高さ

囲繞景観を規定するスケール感の基本的特性[1-6]
視距離に応じた視対象のテクスチャーの効果、特性[1-40]
視距離に応じた視覚的印象の支配要因に関する基本特性[1-42]
仰角に応じた囲繞感の変化特性[1-43]
俯角に応じた俯瞰景の主題政変化の特性[1-43]
調和性 ・背景との色彩対比(明度・彩度・輝度)

・背景の支配線(スカイライン)の切断の有無

・シルエット率

・背景の支配線(スカイライン)との形状的類似性

・背景とのスケール比

・興味対象との位置関係

一対比較法による2色間の色彩調和に関する基本的特性[1-19]
自然風景における色彩調和の特性[1-20]
高架構造物への仰角に応じた圧迫感変化に関する視覚特性[1-21]
自然風景地における人工物の配置方法に応じた景観印象の変化[1-22]
法面形状に応じた視覚的印象に与える影響の変化[1-23]
人工物の仰角に応じた圧迫感、存在感の変化特性[1-24]
自然風景地における人工物の視認特性(視距離、人工物の外観、設置位置、視野占有率、色彩等)[1-25]
独立峰の前景に出現する人工物の位置、規模に応じた眺望特性の変化[1-26]
法面の背景に対するスケール比に応じた視認特性の変化[1-27]
自然風景地における調和色に関する特性[1-38]
送電鉄塔類への仰角に応じた影響特性[1-39]
自然風景地における人工物の景観調和のための基本的手法(形態、背景となる地形との関係性等)[1-44]
自然風景との調和のための色彩の基本特性[1-45]
統一性 ・複雑度(形態的類似性、色彩的類似性)

・整然度(配置の規則性、リズム感)

送電鉄塔の配置の規則性による眺望の印象変化[1-39]
風景の基本的構図の分析・分類[1-54]
審美性 ・美しさ(「普遍価値」の総合的な指標) 写真を用いた選択法による審美性等の評価[1-36]
階層化意志決定法による複数の景観要素の重要度の決定[1-50]



固有性 ・他にはない際立った視覚的特徴 ・アンケート調査

・ヒアリング調査

・資料調査

・映像情報を用いた感覚量測定

・現地での感覚量測定

古老に対するヒアリング調査による地域固有の特殊な空間の把握[1-11]
歴史性 ・古い時代から継承されてきた視覚的特徴

・歴史的史実を想起させる視覚的特徴

海岸部における古来からの生活に密着した視点、眺望の特性[1-9]
森林景観の歴史的価値の把握手法[1-10]
古老に対するヒアリング調査による地域の歴史的な空間の把握[1-11]
郷土性 ・地域の原風景として想起される視覚的特徴

・地域のシンボルとして認識されている視覚的特徴

想起アンケート法、自由描写法による地域のシンボルとなる眺望の抽出[1-1、34、35]
地域の古老に対するヒアリング調査による伝統的な空間認識の把握[1-11]
枯渇進行性 ・地域において失われつつある視覚的特徴 アンケート調査による地域の緑量の変化についての把握[1-3]
親近性 ・地域の人々に親しまれている視覚的特徴 アンケートによる地域住民が好んで眺める風景と視点場の抽出[1-2]
アンケート調査による地域の緑に対する印象の把握[1-3]
地図指摘法による日常的な眺望状況の把握[1-37]

<眺望景観の価値の把握例>

No. [1] 視点名称 K団地からの眺望景観の価値の把握

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2)囲繞景観の把握

(1)景観区の区分

 直接改変域や特性変化が生じる可能性のある範囲内の全域を対象として、景観的に一体の空間として捉えるべき区域に細区分し、調査・予測・評価の単位としての景観区の区分を行う。
 景観区の区分方法には、現時点においては未だ確立した手法が存在するわけではないが、比較的精度の高い地形情報に基づく小水系・標高・傾斜区分、地形・地質調査の結果から得られた地形分類等の地形的要素と、植物調査の結果から得られた植生区分等の地被的要素、さらには視認性解析や現地踏査による目視観察結果等の情報を組み合わせることにより、景観的均質性や一体性を目安として、個別案件ごとに区分することとなる。
 また、景観区の区分は階層的な構造になっているため、調査対象となる地域の特性や対象事業の規模・内容によって、大区分、中区分、小区分というように、事業による景観区の変化を捉えるのに適切なスケールになるまで段階的に区分していき、適切なスケールの景観区を採用する。

    <景観区区分例>

    1 面的開発

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    2 線的開発

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(2)囲繞景観の状態把握

 個別事業に係る主務省令においては、環境要素としての景観を「景観資源」「眺望点」「眺望景観」という3つの要素に細区分している。しかし、これらの要素は個々に独立したものではなく、本来は密接不可分なものであり、景観を客体としての環境要素として科学的・技術的に把握するための分析的アプローチの手段としての区分に他ならないというのが景観分野における基本的考え方である。
 特に個々の景観区ごとに囲繞景観の状態を把握するに当たっては、特定の「景観資源」「眺望点」「眺望景観」を把握するのではなく、以下に示すように、「場」「利用」「眺め」といった広い概念に基づいて調査を実施する必要がある。
 この段階で実施すべき調査は表1-4に示したとおりであり、調査データの整理・解析を通じて、対象地域全体及び大区分、中区分、小区分等の景観区のスケール単位で囲繞景観の状態を把握する。

[1]場の状態

場の状態とは、囲繞景観を構成している物理的、生物的、人文的対象そのものの状態を把握することであり、先に区分した景観区毎に、地学要素、自然現象、生物要素、人文要素といった観点から、個々の要素の状態を物理的に把握する。

[2]利用の状態

 利用の状態とは、囲繞景観を認知する人間の存在を把握することであり、先に区分した景観区毎に、利用者数、利用者の属性、利用形態を定量的、分類的に把握する。

[3]眺めの状態

 眺めの状態とは、囲繞景観の状況を視覚的に把握することであり、先に区分した景観区毎に、景観区内を透視図(スケッチ)、写真、ビデオ、CG等の視覚的情報として把握するとともに、必要に応じ見通し距離や明るさ、色彩等の視覚的刺激に関する物理量を現地での測定により把握する。
 調査によって景観区内の特定の場所から特定の対象を眺める眺望点の存在が明らかとなった場合には、先に示した眺望景観における調査、予測、評価の対象として扱うこととなる。
 また、景観区内に、一連の連続した眺めが何らかの関係性をもって存在するような場合には、見え隠れの効果や急激な視界の広がりにより印象が強まるというように、視覚的変化のプロセスが重要な場合もあることから、調査に当たってはこのような観点についても見落とすことのないよう留意が必要である。なお、その場合には、視覚的変化のプロセスを記号化して示すなど、調査結果の取りまとめに当たっての表現上の工夫が必要となる。

表1-4 >囲繞景観の状態把握に関する調査の項目・内容・方法

調査項目 調査内容 調査方法 整理・解析に用いる主なデータ



地学要素 地形の形状や特徴、高さや幅・距離等の物理的数値、及びそれらの経年的変化の状況等を把握する。 ・現地踏査
(目視確認、写真・ビデオ等映像情報の取得)

・現地での物理量測定

・ヒアリング調査

・アンケート調査
(地元住民、地元有識者、学識経験者、利用者、その他関係者等)

・カウント調査
(利用者等)

・資料調査
(空中写真の収集・撮影、過去の映像情報の収集、観光関連図書、交通量、利用統計、人口データ等既存関連データ等の収集、郷土史、既存文献・研究論文等の収集)

・数値地形モデルの作成

・環境影響評価におけるその他項目に関する調査結果の引用・再解析

・地形・地質項目に関するデータ、現地踏査、ヒアリング結果
自然現象 視覚的に捉えられる形態や色彩等の特徴、発生時期や条件、及びそれらの時間的、季節的、経年的変化の状況等を把握する。 ・地形・気象・水環境項目に関するデータ及びその他自然現象に関わる資料、現地踏査、ヒアリング結果
生物要素 生物素材の形態や色彩的特徴、生物群の種構成や生態に伴う視覚的特徴、及びそれらの季節的、経年的変化の状況、人為による管理の現状や将来の方針等を把握する。 ・動物・植物・生態系項目に関するデータ及び現地踏査、ヒアリング結果、収集資料データ
人文要素 人工物の形態や色彩的特徴、周囲の自然素材との視覚的な関わり、及びそれらの経年的変化の状況、人為による管理の現状や将来の方針等を把握する。 ・文化財、郷土史、観光関連資料等と現地踏査、ヒアリング結果




利用者数 現況において、景観区内に囲繞景観を認知する人間がどの程度いるのかを、景観区内に立ち入る人の人数、季節変動、年変化等の数量的データにより把握する。 ・カウント調査結果、現地踏査、ヒアリング結果、既存の利用統計データ
利用者の属性 現況において、景観区内の囲繞景観を認知している人間がどのような属性を有しているのかを、景観区内に立ち入る人の居住地、年齢層、立ち入り頻度、グループ構成等を分類別の数量的データにより把握する。 ・カウント・アンケート調査結果、現地踏査、ヒアリング結果、既存の利用統計データ
利用目的・時間 現況において、景観区内の囲繞景観を認知している人間がどのような目的で、あるいはどの程度の時間、景観区内に立ち入っているのか等を、定性的、定量的に把握する。 ・アンケート調査結果、現地踏査、ヒアリング結果




視覚画像 各景観区内の眺めを、透視図、写真、ビデオ、CG等の視覚画像を取得することにより把握する。
景観区内の視覚的変化のプロセスを把握する必要がある場合には、ビデオ等の連続的な画像として眺めの変化状況を把握する。
・現地踏査結果、資料収集等から得られた映像情報、空中写真等のデータ
視覚刺激の物理量 見通し距離、明るさ(照度)、基調色、構成要素の色彩・輝度等、視覚的な刺激に対する物理量を現地で測定することにより把握する。 ・現地での物理量測定データ、場の状態把握の結果
<囲繞景観の状態把握例(場の状態:図面)>

【地学要素の状態】
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【生物要素の状態】

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【人文要素の状態】

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<囲繞景観の状態把握例(場の状態:表)>

景観区区分 地学要素 生物要素 人文要素
面積m2 遮蔽度※1 植生群落タイプ数 優占群落名 文化財※2箇所数
1 北部稜線木コナラ林区 173,119 108.343 8 アカガシ変群集 0
2 中部稜線植林区 132,119 11.6111 9 ヒノキ人工林 亜高木林 0
3 S川上流区 188,418 126.025 9 ヒノキ人工林 高木林 0
4 中部斜面混交林区 127,720 45.12 9 ヒノキ人工林 高木林 0
5 集落南部植林区 98,446 126.341 10 ヒノキ人工林 高木林 1
6 集落北部混交林区 202,956 125.037 13 アズキナシ変群集他 2
7 砂礫層アカマツ林区 185,740 150 11 モチツツジ-アカマツ群集 11
8 造成跡草地区 42,366 152.786 11 メリケンカルカヤ-アカマツ群落 0
9 上流植林区 111,881 150.233 10 ヒノキ人工林 亜高木林 2
10 中流コナラ林区 183,191 108.286 11 典型変群集 2
11 下流マツ・コナラ林区 287,049 122.454 6 アズキナシ変群集他 2
(以下省略)
※1: 遮蔽度の算定方法としてここでは、50mメッシュの標高データを用いて、各景観区内の全メッシュ交点を視点として各視点から半径650mの範囲内で視認されるメッシュ数を算出し、それらをすべて重合した上で各景観区面積(総メッシュ数)で割ることによって得られた値を採用することとした。
※2: 景観の歴史的・文化的資源として、ここでは「○○市詳細遺跡地図」より、古墳、古窯跡、城跡、観音堂跡等を対象として抽出した。なお、遺跡のうち既に滅失しているものについては除外した。
<囲繞景観の状態把握例(利用の状態)>

【来訪者の1日当たりの実測値の季節変動と年間総数の推定値】

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<囲繞景観の状態把握例(眺めの状態)>

No. 23 景観区名称 北K川中流区
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2)評価項目の設定と指標の選定

 上記の手法で調査・予測・評価の対象となる範囲内での景観区の区分と囲繞景観の状態把握を行った上で、各景観区の囲繞景観の価値を把握するに先立ち、当該地域の囲繞景観の評価にとって重要な観点は何かを個別案件ごとに検討しなければならない。
 検討に当たっては、表1-1を参考としながら、大きくは普遍価値と固有価値のそれぞれの価値軸に相当する評価項目の中から当該地域において重要と思われる評価項目を設定する。
 次に、設定した評価項目と関わりが深い(相関が高い)代表的指標を、既存の知見や研究例等を参考としながら選定し、各景観区ごとに景観要素の状態把握に関する調査結果を用いて指標に着目した解析を行う。ただし、評価項目と指標との関係が明らかになっていないものに関しては、直接、価値に関する認識把握や感覚量測定のためのヒアリング調査や評価実験等を行う必要があり、特に固有価値に区分される評価項目の多くは、評価項目と指標との関係が不明確なものが多いことから、これらの調査が必要となる。
 囲繞景観の評価項目と関わりが深い代表的指標について、既存の知見及び研究例等により明らかにされているものは表1-5に示したとおりであり、それぞれに対し指標把握や価値に関する直接的な情報取得のための調査・解析方法、参考となる文献・研究例等も表中にあわせて示した。

 

3)囲繞景観の価値の把握

 個別案件においては、表1-5を参考としながら、先に設定した評価項目に対応した指標把握及び価値に関する直接的な情報取得のための調査・解析を実施し、先に区分した景観区ごとに調査結果を取りまとめ、各価値軸に対応する囲繞景観の価値の状態を分かりやすく整理して示す。
 なお、これらの価値の把握については、全国一律の絶対的な基準値(判断が分かれる閾値に関する一般解)が既存の研究等で明らかにされている指標は大変少なく、大半は地域特性によって異なるものであることから、調査対象とした囲繞景観間での相対的比較を基本とし、既存の研究例等のデータについては参考値として示すなどして、個別案件ごとに現状における価値ができる限り正確に理解されるよう、ケースバイケースで表現方法を工夫していく必要がある。

表1-5 囲繞景観の価値に関する評価項目と指標及び調査・解析方法・参考文献等

価値軸 評価項目 代表的指標 調査・解析方法 参考文献・研究例([ ]内の数字は参考資料に対応)
普遍価値 多様性 ・地形の複雑度

・植生、土地利用のモザイク度

・映像情報を用いた物理量測定

・映像情報を用いた感覚量測定

・現地での物理量測定感覚量測定

・数値地形モデルの作成による可視解析、地形解析

・地形図データからの読み取り

・現地踏査による目視観察映像情報取得

・アンケート調査

・ヒアリング調査

・カウント調査

・資料調査

・環境影響評価におけるその他項目に関する調査結果の引用再解析

メッシュアナリシス、各種指標のオーバーレイによる景観特性、モザイク度の分析[1-5]
囲繞景観を規定する要素(地表状態、人工要素、地形要素)の抽出[1-6]
湖岸と内陸との景観的関連性に着目した湖岸景観の類型化手法[1-8]
土地利用境界、起伏量、土地利用状況、気候を指標とした空間の多様性の評価手法[1-18]
写真分析、アンケートによる景観に季節変化をもたらす要素の抽出・分析[2-29]
植生、土地利用に着目した景域区分[1-55]
自然性 ・植生自然度

・緑被率

・大径木の存在

・水際線の形態

・河川の流路の形状(蛇行、瀬・淵の存在)

・水の清浄さ

河川の景観資源としての評価を決定する要素の分析[1-3]
自然環境に関する法規制の状況のオーバーレイを評価軸の一部に用いた森林景観の類型評価手法[1-10]
エリア内に分布する自然資源(河川、湖沼、海岸、植生等)を点数化し、資源性を評価[1-17]
野外調査による動植物等の微細な自然景観要素の把握[2-49]
イメージマップ法を用いた動植物資源の抽出・把握[2-32]
河川の自然的・物理的特性と評価の関連性[1-12]
傑出性 ・高さ、大きさ、広さ、深さ、長さ、古さ 山頂への仰角に応じた独立峰の資源性の変化[1-51]
資料調査による傑出性の把握(関連法指定状況、○○百選/××八景等)
視認性 ・見られやすさ(被視頻度) カメラ、アイマークカメラを用いて興味対象としての見られやすさを把握[1-31、32]
利用性 ・利用者数

・利用のしやすさ

・利用者の属性の幅

カウント調査によりエリアの利用者数、居住者数を実測
レク地の有無、到達距離を評価軸の一部に用いて森林景観を類型評価[1-10]
水辺景観の利用性を規定する要素として河畔植生、河原、河川幅員を抽出[1-13]
エリア内の景観利用状況・地点(利用量、道路、レク地点等)を点数化し、資源性を評価[1-17]
樹林景観のイメージと樹林の利用パターンとの関連性[2-9]
快適性 ・森林内の見通し度

・水辺への接近性

・空間的広がり

河川の護岸形態による親水性、利用快適性の分析・評価[1-12]
WBGT(湿球黒球温度指数)を用いた利用快適性の評価手法[1-28]
樹林内の見通し距離と快適性との関連性[1-46]
固有価値 固有性 ・地名と関わりの深い要素の存在

・他にはない独特の要素の存在

・アンケート調査

・ヒアリング調査

・資料調査

・映像情報を用いた感覚量測定

・現地での感覚量測定

地域の古老へのヒアリング調査により地名と集落内環境との関連性等を把握[1-11]
地域住民に対する想起アンケート法による固有性の高い景観資源の抽出[1-1、34]
歴史性 ・古い時代から継承されてきた要素の存在

・歴史的遺産、史跡等の存在

歴史的・文化的価値(社寺有林、文化財の内包等)を評価軸の一部に用いて森林景観を類型評価[1-10]
地域の古老に対するヒアリング調査により伝統的な空間認識を把握[1-11]
郷土性 ・地域の生活習慣や文化と関わりの深い要素の存在

・地域の内と外とを区別する要素の存在

・地域のシンボルとなっている要素の存在

地域の古老へのヒアリング調査により地形による場所の認識等を把握[1-11]
地域住民に対する想起アンケート法による景観資源の抽出、重要性の判断[1-1、34]
地域住民を対象とした自由描写法による景観資源の抽出、重要性の判断[1-35]
地域の愛唱歌、校歌、文学作品等に取り上げられた景観要素の分析[1-53、2-3]
イメージマップ法等による地域を象徴する景観要素、景観構造の分析[2-30]
枯渇進行性 ・地域にとって失われつつある要素の存在 地域住民へのアンケート調査による失われつつある緑に対する意識の把握[1-2]
文献調査による地域景観イメージの変化の把握[2-2]
航空写真を用いた景域の歴史的変遷の分析による枯渇進行要素の抽出[1-55]
古文学、古地図を利用した現在との景観変化状況の分析[1-60]
親近性 ・地域の人々に親しまれている要素の存在 地域の古老へのヒアリング調査による生活上重要な場所(ハレ、ケ)の把握[1-11]
地域住民による身近な樹林景観の認知と評価の手法[2-35]
地域住民に複数箇所の写真を提示し、その撮影位置を問い、その正答率により親近性等を把握[1-57]

 

<囲繞景観の価値の把握例>

【普遍価値の認識の把握例】

[1]現地でのSD法による評価項目の設定と評価実験結果例

ここではSD法を用いて囲繞景観の普遍価値の認識を行った例を示す。
普遍価値の評価硬毛に対応した事業地の囲繞景観特性に応じた適切な形容詞対を設定し、被験者の各景観区を実験しての印象について、形容詞対にしたがって評価させる。
<SD法を用いた評価実験において設定した形容詞対(例)>

評価項目 形容詞対(5段階)
普遍価値 総合指標 美しい/美しくない
  多様性 複雑な/単調な
  自然性 自然な/不自然な
  快適性 開かれた/囲まれた

[2]評価項目と相関の高い指標の選定例

[1]の評価実験結果に基づき、普遍価値の総合指標とした形容詞対と各形容詞対との相関を検証し、このうち高い相関にあるものを景観区に対する評価を適切に反映する形容詞対として抽出する。
また、抽出した形容詞対について、各景観区に対する評価と相関の高い物理的指標を選定し、これを各景観区の囲繞景観の普遍価値を表す指標として活用する。
<総合指標と相関の高い形容詞対の抽出とそれを象徴する物理的指標の選定(例)>

評価項目 形容詞対 相関係数 囲繞景観の価値を表す物理的指標(下図参照)



多様性 複雑な/単純な 0.50
自然性 自然な/不自然な 0.82 ・各景観区内の優占植生の平均樹高
快適性 快適な/不快な/ 0.83 【谷区】 水辺への接近性(景観区域内を通過する利用ルートのうち、15m以内に河川・池沼が存在する区間の割合
開かれた/囲まれた 0.03 【尾根区】 遮蔽度(各景観区内の全体面積(ha):50mメッシュ交点を視点とし、各視点から半径650mの範囲内で視認されるメッシュ数を各景観区総メッシュ数で割ることによって得られた値)
<SD調査での評価点と囲繞景観の価値を表す物理的指標との相関(例)>

fig_15.jpg (80976 バイト)
【固有価値の認識の把握例】

[1]歴史性:ヒアリング調査による把握

既往知見に基づき事業地内の遺跡の分布状況を把握し、各景観区の歴史性を表す指標として活用する。
[2]郷土性:ヒアリング調査による把握

事業地内の居住者や事業と関わりが深い地域住民を被験者としたヒアリング調査を実施し、郷土性を表す景観要素(例:集落地(集落跡)等の日常生活の場、古地名を含む領域、その場を対象とする要素として慣れ親しまれる対象、地域信仰の対象となる要素、地域の伝承と関連の深い場所、その他地域文化との関連のある要素等)を含んだ景観区を抽出する。
<地域住民等好まれる景観区の抽出結果(例)>

景観区名称及び№ 被験者に評価された要素 抽出された要素数
K集落区 19 K集落、集落内の水田、集落内の民家、集落背後の二次林、神社、石仏、弘法堂 7
北K川下流区 21 北K川沿いの渓谷景観、信玄滝 2
K砂防池区 22 K砂防池、池畔の落葉樹林 2
北K川中流区 23 北K川上流部の渓谷景観、「かくれ屋」と呼ばれる集落跡 2
<囲繞景観の価値の把握方法(例)>

評価項目 把握方法
普遍価値 自然性 SD法による把握 各景観区内の優占植生群落の平均樹高
快適性 SD法による把握 [谷 区] 水辺への接近性(景観区内を通過する利用ルートのうち、15m以内に河川・池沼が存在する区間の割合
[尾根区] 遮蔽度(各景観区内の全50mメッシュ交点を視点とし、各視点から半径650mの範囲内で視認されるメッシュ数を各景観区内層メッシュ数で割ることによって得られた値)
固有価値 歴史性 既往知見に基づく把握(景観区内の遺跡の分布図宇)
郷土性 ヒアリング調査による把握(地域住民党により抽出された景観l区内の景観要素の数)

【価値把握結果の表示例】

(普遍価値-自然性)

fig_16-1.jpg (157167 バイト)

(普遍価値-快適性)

fig_16-2.jpg (199952 バイト)

(固有価値-歴史性)

fig_17-1.jpg (255717 バイト)

(固有価値-郷土性)

fig_17-2.jpg (255325 バイト)

【価値把握結果の表示例(表)】

fig_18.jpg (572922 バイト)

4.予測手法

1)眺望景観の変化予測

 眺望景観の変化予測は、シュミレーション画像の作成党による視覚的変化を予測する技術を用いて行い、視覚的変化による眺望の普遍価値と「固有価値の変化の程度を推定する。

(1)眺望景観の変化予測

 眺望の変化を予測する方法としては、コンピュータ・グラフィックス(CG)、フォトモンタージュ、模型、透視図等を用いた予測画像を作成し、調査によって把握された現況における視覚的資料(映像情報)と比較することにより、視覚的な変化状況を推定する方法が一般的である。

 

(2)眺望景観の価値の変化予測

 眺望の変化による価値の変化については、調査段階で設定した各価値軸ごとの評価項目に着目し、調査及び眺望の変化予測において作成した視覚的資料(現況における映像と予測画像)を用いて、視知覚心理学的な手法の適用により眺望変化に伴う価値の変化を推定するのが一般的である。
 従来のアセスメントにおいては、眺望の変化予測の結果はある程度示されていたものの、眺望変化に伴う価値の変化については曖昧なあるいは一方的な説明にとどまっている場合が多く、評価の段階において第三者の理解が得難い原因の一つとなっていた。しかし、価値の変化についての予測結果を確実に示すことは、次の段階での保全措置の検討方針を明確にするとともに、評価の段階の客観的判断根拠を得るという点においても重要である。
 視覚資料を用いた視知覚心理学的手法の適用は、アセスメントの分野において十分な経験の蓄積がなされてきたとは言い難いが、景観に関する学術的研究の分野においては、既に多くの研究成果が得られている。
 したがって、今後はそれらの既存知見を活用しながら、個々の案件ごとに調査段階で把握した代表的指標の物理的変化量の測定を行うことにより推定したり、あるいは直接、価値の変化に関する認識把握や感覚量測定を行う必要がある。

<眺望景観変化予の測例>

視点名称 K団地からのM山方向の眺め
fig_19.jpg (584153 バイト)

<眺望景観の価値の変化予測例>

K団地からの眺望景観の価値の変化予測

fig_20-1.jpg (176818 バイト)

fig_20-2.jpg (139641 バイト)

【価値の変化予測例

fig_20-3.jpg (169938 バイト)

2)囲繞景観の変化予測

 囲繞景観の変化予測は、主にオーバーレイ等による景観要素の状態の変化を予測する技術を用いて行い、景観要素の状態の変化による囲繞景観の普遍価値と固有価値の変化の程度を景観区ごとに推定する。

(1)囲繞景観の状態の変化予測

 囲繞景観の状態の変化予測は、直接改変とそれに伴って生じる様々な影響要因による景観要素の状態の変化を予測することによって行う。予測方法としては、調査によって把握された景観区の区分と事業計画における直接改変域を同精度の地形図上でオーバーレイすることにより、直接改変により囲繞景観の状態が変化する景観区を抽出した上で、その変化状況を推定するのが一般的である。
 直接改変による囲繞景観の変化は、景観区内での改変面積の図上計測等の結果を用いて、景観区に占める改変面積率、囲繞景観の調査対象地域全体及び景観区の各階層スケール単位での改変率等を示すことにより推定する。
 その他の影響要因による囲繞景観の変化は、他の環境項目の予測結果や類似事例の引用、計量計画的手法、シミュレーション画像の作成等の手法を用いて、直接改変を受ける景観区及びその周囲に存在する景観区の場の状態、利用の状態、眺めの状態がどのように変化するかを示すことにより推定する。
 囲繞景観における眺めの状態変化に当たっては、眺望景観の時のように特定の眺望点からの眺望景観を特定することができないことから、シーン景観に対する従来の予測手法では十分対応できないことから、CG技術の適用によるアニメーションやバーチャル・リアリティー(VR)手法の導入や模型の活用等による新たな予測技術の導入についても検討すべきである。

 

(2)囲繞景観の価値の変化予測

 囲繞景観の状態変化による価値の変化については、調査段階で設定した各価値軸ごとの評価項目に着目し、調査及び囲繞景観の状態変化の予測結果を用いて、類似事例等の引用による仮説的推定、価値の変化に関する認識把握による推定、視知覚心理学的な手法の適用による推定等を行う必要がある。
 従来のアセスメントにおいては、囲繞景観に関する調査・予測・評価が明確に位置付けられていなかったため、アセスメントにおける経験の蓄積は現段階では不十分であるが、場の有する景観的な価値をめぐる住民と事業者との対立といった問題に対処していくためには、今後の個別案件ごとの試行的、実験的な取り組みの積み重ねが必要である。
 類似事例等の引用による仮説的推定は、類似の囲繞景観を有する地域の開発事例を資料調査により検索し、価値認識の変化に関わる問題が生じた事例、あるいは生じなかった事例との比較によって仮説的に推定する。
 価値の変化に関する認識把握による推定は、先に行った囲繞景観の状態変化の予測結果を用いて、ヒアリングやアンケート等を行うことにより、現況における囲繞景観の価値の変化状況を把握することによって行う。
 視知覚心理学的な手法の適用による推定は、眺望景観の変化の予測手法と同様の手法を用いて行う。

<囲繞景観の変化予測例(場の状態:図面)>

【地学要素の変化予測】
fig_21-1.jpg (138419 バイト)

【生物要素の変化予測】
fig_21-2.jpg (156558 バイト)

【人文要素の変化予測】
fig_21-3.jpg (142956 バイト)

景観区区分 地学要素 生物要素 人文要素
面積m2 遮蔽度※1 植生群落タイプ゚数 優占群落名 文化財※2箇所数
現況 改変面積 現況 改変後 現況 改変後 現況 改変後 現況 改変箇所数
1

173,119

0

108.343

108.343

8

8

アカガシ変群集 アカガシ変群集

0

0

2

132,119

0

11.6111

11.6111

9

9

ヒノキ人工林 亜高木林 ヒノキ人工林 亜高木林

0

0

3

188,418

0

126.025

126.025

9

9

ヒノキ人工林 高木林 ヒノキ人工林 高木林

0

0

4

127,720

13,766

45.12

120

9

10

ヒノキ人工林 高木林 ヒノキ人工林 高木林

0

0

5

98,446

1,947

126.341

150

10

11

ヒノキ人工林 高木林 ヒノキ人工林 高木林

1

0

6

202,956

142,726

125.037

300

13

8

アズキナシ変群集他 造成裸地

2

1

7

185,740

87

150

150

11

12

モチツツジ-アカマツ群集 モチツツジ-アカマツ群集

11

0

8

42,366

0

152.786

152.786

11

10

メリケンカルカヤ-アカマツ群落 メリケンカルカヤ-アカマツ群落

0

0

9

111,881

0

150.233

150.233

10

10

ヒノキ人工林 亜高木林 ヒノキ人工林 亜高木林

2

0

10

183,191

0

108.286

108.286

11

11

典型変群集 典型変群集

2

0

(以下省略)

1: 遮蔽度の算定方法としてここでは、50mメッシュの標高データを用いて、各景観区内の全メッシュ交点を視点として各視点から半径650mの範囲内で視認されるメッシュ数を算出し、それらをすべて重合した上で各景観区面積(総メッシュ数)で割ることによって得られた値を採用することとした。
2: 景観の歴史的・文化的資源として、ここでは「○○市詳細遺跡地図」より、古墳、古窯跡、城跡、観音堂跡等を対象として抽出した。なお、遺跡のうち既に滅失しているものについては除外した。

<囲繞景観の変化予測例(利用の変化予測)>

【来訪者の年間総数の変化予測】

fig_22-1.jpg (276921バイト)

【居住者人口の変化予測】

fig_22-2.jpg (190677 バイト)

<囲繞景観の変化予測例(眺めの変化予測)

fig_23.jpg (607752 バイト)

<囲繞景観の価値の変化予測例(図面)>

(普遍価値-自然性)

(普遍価値-快適性) fig_24-2.jpg (170869 バイト)fig_24-1.jpg (188571 バイト)
 
(固有価値-歴史性)

fig_25-1.jpg (213552 バイト)

(固有価値-郷土性)

fig_25-2.jpg (252615 バイト)

<囲繞景観の価値の変化予測例(表)>

fig_26.jpg (635793 バイト)