目次
1 陸水域生態系の調査、予測の基本的な考え方 1- 1
1-1 昨年度の検討概要(スコーピングの進め方)1 - 1
1-2 陸水域生態系の特徴 1- 2
1-3 調査、予測のあり方 1 - 4
1-4 陸水域生態系と他の環境影響評価項目との関係 1 - 6
2 スコーピングから環境影響評価の実施段階への手順 1- 8
3 陸水域生態系の環境影響評価の手法 1 -10
3-1陸水域生態系へ与える影響の整理 1 -10
3-2陸水域生態系の調査 1- 12
3-3 陸水域生態系の影響予測 1 - 18
1 陸水域生態系の調査、予測の基本的な考え方
1-1 昨年度の検討概要(スコーピングの進め方)
環境影響評価法に新たに導入されたスコーピング(環境影響評価の項目・手法の選定)の手順と陸水域の特性に応じた考え方や留意点について、以下の流れに沿って検討・例示した。
・事業の影響要因の整理
陸水域に特徴的な変動性や連続性に影響を与える事業として、ダム事業、堰事業、水力発電所などを挙げ、事業による影響要因を検討・整理した。
・地域概況調査による地域特性の把握・整理
地域概況調査により実施する既存資料調査、ヒアリングおよび概略調査について、「動物」「植物」「水環境」などとの共通作業、陸水域の検討を進めるための捉えるべき範囲などを検討・整理した。
・陸水域の類型区分
陸水域の類型区分では、地域概況調査に基づく対象地域を含む河川、湖沼などの全国的・広域的視点から見た特性の把握の内容と留意点、対象事業実施区域およびその周辺の対象地域の特性を把握するための内容と留意点並びに環境要素を例示した。また、上記を踏まえた陸水域生態系の類型区分の留意点について整理・検討し、類型区分にあたり着目する基盤環境要素など、動植物の生息を規定する基盤環境要素などとその関連についてそれぞれ例示した。
・評価する上で重要な類型の選定
スコーピング段階の環境影響評価の項目、調査、予測、評価手法の選定において、重点をおいて評価すべき評価項目の検討内容、評価する上で重要な類型区分の検討内容並びに重要な類型区分選定のための留意点について視点を示した。
・生態系の構造・機能の概略検討
上記で選定された「評価する上で重要な類型区分」を対象に、生態系の構造について、関連する構成要素を整理する視点、基礎情報となる動植物の生態的特性の内容を例示した。また、生態系の機能については、環境維持、形成、物質生産、循環など把握すべき内容と機能を例示した。
・注目種・群集の抽出
上位性、典型性、特殊性の3つの視点の考え方から、特に陸水域では以下の2つの留意点をあげ、考え方や抽出方法について整理した。また、3つの視点ごとに選定種・群集の例示した。
1)生活史における水域への依存度
2)水系の持つ連続性、変動性という特性
・調査・予測手法の選定
上記までのスコーピング段階での検討、整理結果を踏まえ、陸水域生態系への影響を客観的に把握できる調査、予測、評価の手法を選定するための、事業特性に応じた手法選定の考え方、重点化・簡略化を含めた効果的な技術手法について検討した。
また、平成11年度の検討では地域特性の把握結果を踏まえた注目種・群集を抽出するためのモデル的な手順について作業例を示した。
1-2 陸水域生態系の特徴
陸水域生態系は、水域と隣接する陸域および境界にある移行帯で構成される一連の環境系である。これを生物の生活の場という視点から眺めると、水を通じた生活基盤への作用や陸水域と陸域とのつながりまたは海域とのつながりが重要である。
陸水域生態系の特性はこのような水を通じた場や、変動性、連続性に凝縮される。
陸水域生態系の特性のうち、環境影響評価において捉えるべき視点については、おおむね以下のように整理される。
(1)場の成り立ち
・陸水域生態系は、場の成り立ちを考えると立地として水域と陸域の2つに大別されるが、この両者の接点、すなわち移行帯(水際)を含めて陸域、水域の双方から成立する。その形態は、河川、渓流などの流水域、湖沼、湿原などの止水域、ダム湖などの人工的な水域など様々であり、また、開放的な系あるいは閉鎖的な系といった面を有するなど、それぞれが個性的な構造や機能をもっている。
・陸水域の生物には移行帯に生息する種や、生活史の上である時期にのみ水域に依存する種などが存在する。これらは水域と陸域の連続性に依存して生活する生物であり、陸水域生態系の多様性を支えている。
・水を媒体とする空間に成立する水域生態系と、空気を媒体とする陸域生態系とは大きく異なった分類グループの生物種・群集が生活していることから、陸域、水域にまたがる陸水域生態系には多様な生物群集が成立している。
・陸水域生態系は、陸域生態系、海域生態系の双方と隣り合って関連しており、特に相互を物質循環の面で結ぶ重要な環境である。
・我が国の河川、湖沼は、河川改修や漁業による種苗放流などにより、生態系の構成要素や構造、機能に概ね人為的影響が及んでいることが多い。
(2)変動する場
・河川は流量や水位に日変動、季節変動、年変動がある。これらは集水域や涵養域の降水特性、地質、土地利用や河川勾配などの環境要素によって規定される。上流にダムなどがある場合には変動が人為的に操作される。このような変動は移行帯成立のもととなり、物質の流れをも規定する。さらに場ごとに流水の作用の程度が異なり基盤環境に多様性をもたらしている。また、河口部には河川の水理に潮汐の作用が加わり、陸水域と海域相互の性質を反映した複雑で多様性に富んだ生態系が成立する。湖沼や湿原などにも河川水や地下水の流入・流出による変動があり基盤 環境に多様性をもたらしている。
・一方、こうした変動に対して、それらを超える異常気象や台風、自然災害などに伴う突発的な基盤環境の変動が生ずることがある。河川では洪水、湖沼では増水や吹送による波浪の発生、渇水による異常な水位低下などで、河床や湖岸の植生、河床材料、水質、底質への攪乱がある。たとえば河畔林では数十年に1回程度発生するような洪水で群落が更新しているものがある。
・河川では、洪水は水と大量の土砂を流下させ、地形や河床材の構成を一度に変化させる。これは河川の流入する湖沼や湿原でも起こる。物質循環の面では平水時に貯留した物質が一挙に流出し、陸域から新たな物質が流入する。河畔林では洪水による物理的な破壊により群落が流出し、そのあとに生じた裸地が新たな河畔林の生育基盤となる場合がある。ある種の魚類では個体群が洪水で混合することで遺伝的多様性が増し、集団の安定性を高めることがある。陸水域生態系では洪水の頻度や規模が生態系の成立にあたっての重要な要素である。
・河川では浸食と堆積により生物の生活基盤となる地形が形成される。浸食は底質を洗ったり砂礫の表面を剥離するなどして新しい生活基盤を形成する。堆積は水際の地形や河床材の変化をもたらす。砂が多く供給されると石礫の空隙が埋まり、微小な生息空間が失われることもある。
・湖沼でも同様に浸食と堆積は起こる。たとえば規模の大きい海跡湖では沿岸流による物質の運搬がある。また、流入河川による堆積や波浪による浸食と堆積で湖畔の地形が変化する。
・湖沼、ダム湖など一定の水深をもつ容量の大きな水域では季節的に水温の急変する水温躍層が形成され、水生生物の分布に大きな影響を及ぼす。また、湖沼や湿原では結氷の有無が生物の生活に影響を与える。
・生物の生育・生息に関わりのある水質には、物質生産の基礎量を示す有機物や栄養塩類、pH、塩分などがあるが、陸水域の生物はそれぞれ水質に対し生育・生息が可能な範囲があり、しばしばこれらが生育・生息の指標となる。なお、回遊魚などの一部の生物では生息が可能な水質の範囲は生活史の段階に応じて変化するという特性をもつ。
(3)連続する場
・河川は物質が水とともに上流から下流へと連続して流下する環境である。また、有機物や栄養塩類など生物にとって重要な物質は河川以外からも供給され、食物連鎖などを通じて陸水域生態系のさまざまな場で生活する生物相やその現存量に反映される。このような連続性は陸水域の物質循環を規定する重要な特徴である。
・河川では源流部から河口に至るまで地形、地質、土地利用などによりそれぞれの区間で固有の特性を持った生態系が形成されている。これらの異なる生態系が水の流れを介して連続して出現することが特徴である。
・河口部は河川と海域が連続する場として、河川が上流から下流へ運ぶ物質の流れと海域から潮汐の運ぶ物質の流れが相互に関わる場であり、特殊な環境が形成されている。
・火山湖の一部などを除きほとんどの湖沼は流入・流出河川を伴っており、河川を通じた物質の流れの影響を受ける。ただし物質循環を考える上では内部生産が重要である。
・遡上、降河する魚類、甲殻類や水生昆虫など水系のつながりを縦断的に利用する生物が存在する。
・河岸や湖岸は水域の変動に対応した移行帯を持つ。陸水域では、移行帯に生息する種や、生活史の上で生活の場が水域から陸域へと変化する種など移行帯の連続性に依存した生物が存在する。
(4)地理的隔離性
魚類など水系のみを移動経路としている生物の中には、地史的な経緯により水系の連続性が失われたために、限られた水域あるいは流域に隔離分布をしている種や個体群が生息している場合がある。このように地理的・遺伝的に隔離されることによって、孤立した種や個体群を含む特徴のある生態系が成立している。
1-3 調査、予測、評価のあり方
[1]陸水域生態系への影響の予測、評価の方法
生態系に関する影響評価をおこなうためには、対象となる生態系の環境要素の現状と影響程度を明らかにする必要があるが、生態系そのものを把握することは現在の科学的知見では不可能であるとともに、確立した影響評価手法もない。そのため、事業特性や地域特性を十分に把握した上で個別に手法を検討する必要があり、その際に対象となる生態系への影響をどの面から捉えるかといった視点が重要となる。
陸水域生態系に関する影響評価は、事業の実施により前項で示した陸水域生態系の場の成り立ち、連続性、変動性などの特性に対してどのような影響が及ぶかとの視点でおこなう。
また、陸水域生態系は陸域生態系、海域生態系と密接に関連し、それぞれと共通した視点で構成要素や構造、機能を捉える必要があることから、陸水域生態系の影響評価は、陸域生態系、海域生態系それぞれで検討した手法を含め、以下に示した手法を基本におこなう。
・おもに陸水域生態系の場の成り立ちへの影響について把握するため、水を媒体とした基盤環境と生物種・群集の関係について調査し、対象地域の生態系の構成要素や構造の概要を把握した上で生態系に対する影響予測をおこなう方法。
・上位性・典型性・特殊性の視点から水域に依存する注目種・群集を選定し、それらに対する調査、予測を通じて生態系に対する影響評価をおこなう方法。上位性ではおもに水域の生物種間の関係や構造に、典型性では陸水域生態系の変動性や連続性に、特殊性では局所的な基盤環境や地理的隔離性などに着目した影響評価をおこなう。
・河川では土砂の掃流、栄養分の供給などの物質生産・循環、水質形成・浄化、景観形成、生物の生育・生息空間の形成・維持など、湖沼では河川と同様の機能や、物質の貯留などの重要な機能について影響評価をおこなう方法。このような機能は生態系の健全性と密接に関連している。
[2]評価の視点から予測手法、調査手法を検討する
環境影響評価では、影響評価をおこなう事業者がどのような視点で影響を検討し、何を評価すべきかという視点を明確にして調査、予測を進めることが重要である。調査、予測手法の選定は、地域の環境特性、地域のニーズ、事業特性から保全上重要な環境要素、環境保全の基本的な方向性などについて検討した結果を踏まえて、陸水域生態系の特性から、水を通じてどのような対象・事象への影響が、どのような切り口で調査、予測ができるかを検討して、重点を置いて評価すべき影響の内容を設定する。次にその評価をおこなうための予測手法、その予測に必要な調査項目および調査手法を設定する。調査、予測の項目や手法の選定理由はわかりやすく明示することが必要である。
[3]陸水域生態系の調査、予測の留意点
陸水域生態系の調査、予測を計画、実施する際の留意点としては以下の点が考えられる。
・我が国の河川、湖沼には既に人為的影響が及んでいることが多く、当該事業による影響要因と他の影響要因が複合して影響を及ぼすことが考えられる。この場合、事業特性や地域特性に応じて、他の影響要因や、過去からの環境変化とその影響要因にも配慮して、当該事業に係わらない将来の環境の変化も予想しながら影響評価をおこなうこと。
・異常気象や台風、自然災害などに伴う突発的な基盤環境の変動による攪乱を要因として成立している生態系を対象とする場合には、攪乱により維持されていることを考慮して影響評価をおこなうこと。
・影響の不確実性や、用いる調査、予測手法の不確実性を考慮し、事後調査における検証を念頭において影響評価をおこなうこと。
・影響予測を可能な限り客観的・定量的に進めること。とくに陸水域生態系では水位、流量、流速、水質などの物理的、化学的な基盤環境要素は定量的に捉えることのできる事象であるので、これらの物理的、化学的要素については定量的に調査または予測する手法を用いること。
・既往の手法の応用や組み合わせによる手法の検討に加えて、新しい科学的知見、技術による試みを積極的に活用すること。
準備書・評価書作成の視点
[4] 準備書や評価書では、単に結果を述べるだけでなく、影響評価にあたって生態系の現況と事業による環境影響を把握・検討した結果、どのような点に重点を置いて予測、評価を行ったのかなど、結果を導いたプロセスと事業者としての見解を述べることが特に重要である。
また、より良い合意形成のためには、環境影響評価のそれぞれの段階でその時点の計画熟度を踏まえた事業計画の内容(必要性、効果、計画策定の経過なども含む)や事業者の環境保全に関する基本的な考え方について、十分説明していくことが大切である。
さらに、有識者や委員会などから助言や指導を得ることや、準備書・評価書の作成段階では内容をわかりやすく表現できるよう創意工夫することなども望まれる。
1-4 陸水域生態系と他の環境影響評価項目との関係
[1]他の環境影響評価項目との情報の共有・連携
「水環境」「地形・地質」「動物」「植物」など他の環境影響評価の項目で対象とする環境要素はそれぞれ陸水域生態系を構成する要素でもある。このためスコーピング段階と同様に生態系の調査、予測に際しても、関連する他の項目と情報を共有し、連携を図りながら作業を進める必要がある。
「動物」「植物」と「生態系」では作業上は共通する部分が多いことから、一体的な調査、予測をおこなうことで効果的な影響評価をすることができる。しかし、「動物」「植物」では、おもに重要な種・群落や注目すべき生息地などの存続という視点で調査および予測をおこなうが、「生態系」では、構成要素である基盤環境と動植物の相互関係、その関係が成立している場、構造や機能を通じて生態系全体への影響を把握することを目的としており、評価の視点や調査、予測内容に違いがあることに留意する必要がある。
また、後述する「基盤環境と生物群集の調査」では特に「水環境」「地形・地質」「動物」「植物」など他の環境影響評価の項目の調査結果が有効に活用できるため、これらの調査が先行して実施されることが望ましい。
[2]生態系項目として捉えるべき「水環境」「地形・地質」
「水環境」や「地形・地質」では、それぞれの項目の必要性から影響評価の内容を検討して調査・予測が行われるが、陸水域生態系の基盤環境要素として把握する場合にはそれらの内容とは別の内容が求められる場合も多い。
たとえば「水環境」項目では河川における流速は流心を対象とするのに対して、生物にとっては河岸付近の流速が重要であるように、各環境要素の予測対象が「生態系」で対象とする生物の生息・生育条件と合致しないと考えられる際には、そのための調査、予測を別途実施する必要がある。
陸水域生態系では、「陸域生態系」および「海域生態系」と相互に重なり合っており、特に「水環境」を通じた物質循環や生物の回遊の面から関連が深い。陸水域生態系に関わる影響評価では、隣接する陸域・海域を含めて調査、予測をおこなう。特に以下のような環境は陸水域生態系の視点から一体的に影響評価をおこなう。
・河畔、湖畔などの陸水域の影響を受ける陸域
・集水域などの陸水域に影響する陸域
・規模が小さな湖沼や湿原などの陸水域
・河口部(汽水域)
また、地下水については、陸水域と関連が深い浅層の地下水、河川の伏流水は陸水域生態系の視点からも検討する。
2 スコーピングから環境影響評価の実施段階への手順
スコーピング(環境影響評価の計画段階)から環境影響評価の実施段階への手順はおおよそ図-1に示したフローのように進める。
スコーピングは、事業計画のなるべく早い段階でおこなうことが望ましい。この段階では調査、予測の項目や手法を提示して地方公共団体や住民、専門家などから意見を幅広く聴く。事業者はこれらの意見をふまえ検討した項目・手法を再検討し、当該案件に最も適した実施方法を選定した上で、実施段階に入ることが重要である。
環境影響評価の実施段階では調査により得られる情報をもとに項目・手法を再検討するとともに、より詳細な実施方法を検討しながら、調査、予測、評価を進める。実施段階においても再検討は合理的な理由によるものであれば方法書の記載に係わらず柔軟におこなうことができる。
また、「動物」「植物」の項目と「生態系」を同時に進める場合において、「動物」「植物」の調査で注目種・群集に選定すべき種の生育・生息が新たに確認されたときなどは、対象となる生態系の構造と機能について再検討をおこない、必要な調査、予測、評価を追加して選定、実施する。
これらの再検討の経緯および理由と最終的に選定した項目・手法は準備書に記載し、改めて意見を聴く。なお、各項目の検討に際しては環境保全措置との関係も十分に配慮することが必要である。
図-1 環境影響評価における調査、予測、評価の流れ
3 陸水域生態系の環境影響評価の手法
3-1 陸水域生態系へ与える影響の整理
環境影響評価で事業が対象地域および周辺の生態系のどの部分に影響を及ぼすかを検討するには、まず基盤となる環境をまとまりを有する場や地域ごとに類型区分し、事業特性や地域特性の整理により、影響要因と影響を受ける環境要素(基盤環境要素や生物種・群集)の関連を把握し、影響を受ける環境要素が含まれる類型区分を「評価する上で重要な類型(生態系)」として選定する(「自然環境のアセスメント技術(Ⅱ)」(環境庁,平成12年8月))。
陸水域生態系の類型区分にあたっては、縦断的、横断的な連続性とともに、平面的に捉えられる地形区分や植生などまとまりの中に垂直的に異なる空間が存在したり、特殊立地として捉えられるまとまりが局所的に包含されていることがあるので、このような階層性を持った基盤環境要素間の関連について把握することが重要である。
類型区分をおこなったのちは生態系の構成要素や構造・機能の整理はこの類型を基本的な単位としておこなう。特に後述する基盤環境と生物群集に関する調査において、構成要素間の関連の特徴を明らかにするには、陸水域生態系の場の成り立ちを把握する単位ともなる類型のスケールを適切に設定することが重要である。類型区分はいたずらに細分化することは避け、事業実施に伴う基盤環境要素の変化を概観できる程度の区分が望ましい。
影響要因と環境要素の関連については、陸水域生態系では影響要因と環境要素間に水を介した影響の伝播があるものを主体に整理する。
陸水域生態系では事業による影響の検討の前段階で、基盤環境要素の日変動や季節変動、あるいは年変動に伴う陸水域生態系への作用について整理する。また、前述したとおり異常気象や台風、自然災害などに伴う突発的な基盤環境の変動なども陸水域生態系を形成する要因となっていることや、多くの河川や湖沼では河岸・湖岸の改変、構造物の存在、漁業対象種の移入など、既に人為的影響が及んでいることが多いので、それらの内容についても把握する。
図-2 工作物の設置による河川環境へのインパクト(例)
○河川工作物の設置により、上流域では堆砂により水生生物の生息環境が狭隘化し、底生動物や付着藻類の生息・生育条 件を大きく変化させ、魚道が付帯しない場合には魚類の降河行動への影響も大きい。
○下流域では上流の土砂が扞止されるため、ダムの直下に洗掘が起こり澪筋が定まらず魚類の遡上に大きな影響を及ぼす 場合もある。また、土砂の供給が減少するため、河床形態(瀬や淵の存在等)が変化し、底生動物相や付着藻類相にも 変化が予想される。
図-3 生態系構成要素と人為的インパクトの関係図
出典:水辺の環境調査(財)ダム水源地環境整備センター(1994)より引用(一部改変)
○調査で把握すべき事項を具体化するには、事業のインパクトとそのインパクトにより一般的に予想される影響を想定する 必要がある。陸水域に係わる事業について考えると、直接的影響として、植生の消失や動物の行動阻害等、物理的及び化 学的変化による「場の消失」として地形の改変や湛水による水環境の変化などが、蓄積として重金属などの汚染物質によ る生物への影響等が想定できる。
3-2 陸水域生態系の調査
(1)調査地域の設定
[1]調査地域設定の視点
調査地域の設定にあたっては、予測に必要な環境要素の状況を把握する視点から、事業による影響要因の及ぶ類型と基盤環境要素の分布、調査、予測の対象となる生物の生活史と利用する類型の分布などに十分考慮して検討する。
陸水域生態系の調査地域は、対象事業実施区域の外縁から一定距離で囲まれる範囲というような単純な設定ではなく、土壌水分や地下水などが水域と関連する陸域側を含む範囲や、河川では水の流下に伴い影響が波及する下流側を含む範囲、あるいは対象事業実施区域が含まれる集水域全体など、事業の特性や地域特性を勘案して設定する。また、湿原や湿地、湧水地などでは地形的にみた集水域と別に地下水の涵養域を調査地域とする場合が考えられる。
湖沼における調査地域は、湖沼の規模や対象事業などにより異なるが、調査の実施可能な範囲として、水深のある湖沼では湖棚まで、水深の浅い湖沼や漁業資源が存在する湖沼では湖沼全体などを設定する場合が考えられる。
生物種・群集の面からは、特に遡上・降河する動物など陸水域に生息する生物はその生活史の段階に応じて生息場所や餌資源など選好する環境要素が変化することが多いので、調査地域・地点などは注目種・群集やそれらと関係する種・群集の生態を把握できるように設定する。
種によっては特に繁殖期などの生活史の一時期のみ利用する場など、ごく小規模な場を失うことにより存続が危ぶまれるような場合もあることから、そのような場を見落とすことなく把握できるように設定する。
魚類のように水域のみに生息する生物種・群集の影響予測では、対象とする種・群集の生息環境条件のほかに個体群の供給源の面から周辺の個体群との交流の状況や、供給経路となる水系を把握する必要があるので、対象事業実施区域が含まれる流域や区間以外の分布域も調査地域に含める場合がある。また、供用時に湛水域が出現する場合など事業の実施により新しい類型の存在が想定される場合は近傍の同様な類型を含む地域も調査対象とする必要がある。
なお、渡りや回遊などで広範囲を移動する生物種・群集については、事業による影響要因の及ぶ類型など詳細な現地調査が可能な地域と、渡り先や回遊範囲全体など現地調査が困難な地域を分け、それぞれの地域で異なる調査手法を検討することも必要である。
[2]地理的隔離性がある場合の調査地域
陸水域生態系では魚類など水域のみを移動経路としている生物種・群集に地理的隔離性がみられる場合があるが、たとえば対象事業実施区域に係る流域に隔離された個体群が存在する場合は、当該個体群の分布域全体を調査地域とする場合や、当該個体群の特性(生態的または遺伝的特性など)を把握するために、近隣の交流のない個体群を調査対象に、その分布域を調査地域とする場合がある。
[3]事後調査地点の確保
事後調査の実施が想定される場合には、用いる事後調査地点(定点)として調査、予測地点の一部を確保する。事後調査地点は、直接改変を受けない地点など、同じ地点で将来も調査が行える場所とする。また、同質の環境要素を有し事業の影響要因の及ばない地点に対照する調査区を設定する。このためには調査、予測の着手段階で事後調査計画を検討しておく必要がある。
なお、調査地点の設定に際しては、水質、底質、流況など陸水域生態系に関連の深い他の影響評価項目の事後調査地点とも関連づけておく。
(2)調査方法
陸水域生態系に関する調査は、陸水域を形成する基盤環境や水域に依存した生物種・群集などの構成要素、陸水域生態系の構造や連続性、変動性などの特徴を指標する注目種・群集、陸水域生態系の機能などの事業による変化を把握することを通じておこなう。
調査項目は、影響要因と影響を受ける環境要素の関連の検討を通じて把握される影響の中から、影響の流れが明らかで、特に水環境との関連性が高いものに着目して選定する。
対象とする項目やその手法は、影響要因が時間的・空間的にどのように環境要素に作用するか把握できるものを選定する。
1)基盤環境と生物群集に関する調査
基盤環境と生物群集の調査では、対象地域の生態系について、類型区分ごとに基盤環境要素と生物種・群集について調査し、生態系の構成要素や構造の概要と特徴を把握する。
陸水域生態系では基盤環境要素の関連からまとまりごとに区分される類型ごとに、生育・生息環境を形成する水質、水量、流速、底質、地形・地質、土壌や植生などの基盤環境要素と、生育・生息する生物種・群集を調査し、陸水域生態系の構成要素を明らかにするとともに、基盤環境要素間の関係から場の成り立ちを、基盤環境要素と生物種・群集の関係、生物種の栄養段階、捕食-被食関係など生物相互の関係から生態系の構造を把握する。
調査は、「地域特性の把握」で捉えた水質、地形、植生などの基盤環境要素の状況と生物種・群集の生育・生息、分布状況や、「動物」「植物」などの調査で明らかになる生物種・群集の生息・生育状況や生息・生育環境などの情報をもとに、必要に応じて現地調査も含めておこなう。
基盤環境と生物群集の関連を把握する視点の例を以下に示した。
・水域、移行帯、陸域といった類型や、瀬や淵、砂底や礫底、砂礫堆などの小生息空間の差異により区分される類型、水質により区分される類型などと生物種・群集の関連
・湖沼における水深や水温の違いと生物種・群集の関連
・表流水による基盤環境の攪乱頻度の違いと生物種・群集の関連
・地下水、伏流水、湧水などの局所的または特殊な環境と生物種・群集の関連
生物種・群集の特性把握に必要な調査項目の例を以下に示した。
・基盤環境と生物種・群落の対応関係
植物群落:一般的な分布特性、生育基盤の特性、遷移系列、対象地域での占有
面積
植物種:生育基盤の特性
動物種:一般的な分布特性、生息基盤の特性、利用空間の特性、対象地の利用
様式、生活史
・生物種・群集間の相互関係
植物群落:相観、遷移系列・遷移段階、群落構造、種組成
植物種:生育する群集群落、動物との関連(受粉、種子散布、被食)
動物種:個体の大きさ(個体重など)、生息個体数・密度、生活史、食性、栄養段階、捕食者、寄生者
生物種・群集については調査項目に掲げた生育・生息空間、群集群落、遷移系列、分布域、栄養段階、生態的地位、生活形、対象地域の利用様式などの視点から同じ特性をもつ種群ごとに整理する。
「水環境」「地形・地質」「動物」「植物」など他の環境影響評価項目の調査はいずれも先行して実施し、基盤環境と生物種・群集に関する調査ではそれらの調査結果が利活用できると効率がよい。
また、「注目種・群集に関する調査」に係る注目種・群集の選定や再検討にあたり、生物種の栄養段階や捕食-被食関係などは上位性の種・群集、基盤環境の連続性や変動性と生物種・群集の関係などは典型性の種・群集、局地的な基盤環境と生物種・群集の関係などは特殊性の種・群集といったように、基盤環境と生物群集の調査結果が有用であることから、生態系への影響予測に際しても本調査を先行して実施することが望まれる。
調査から予測への流れは図-4に示したとおりである。予測に際し、調査結果を類型間、類型と基盤環境要素、基盤環境要素と生物種・群集、生物種・群集の相互関係およびそれらの時間的季節的変化の面などから整理しておく。
図-4 基盤環境と生物群集に関する調査から予測の流れ
2)注目種・群集に関する調査
注目種・群集に関する調査では、事業実施に伴う基盤環境要素や生物種・群集の変化と、注目種・群集の生育・生息状況の変化が関連づけて予測できるように、注目種・群集自体の生育・生息状況として、分布、個体数、現存量、密度、生活空間の利用様式、生活史、水域依存性、なわばり、食性、繁殖状況などの項目のほか、生育・生息条件となっている基盤環境要素や、捕食-被食、共生・寄生、競合関係など相互に関係する生物種・群集とその生育・生息状況を調査対象とする。
陸水域生態系では水域の依存度が高い種から注目種・群集を選定するとともに、生育・生息環境として「水環境」との関わりを十分に把握する必要がある。
上位性の注目種・群集は栄養段階の上位に位置する種・群集から選定することから、調査にあたっては対象とする注目種・群集を中心とした食物網を想定し、注目種・群集とともに各栄養段階の主要な種・群集の生育・生息状況と生育・生息条件や食性、捕食-被食量などを調査する。
典型性の注目種・群集は、表流水による河床の攪乱といった基盤環境の変動や、河川の上下流のつながり、移行帯を介した水域と陸上の連続性など、陸水域の本来の性質や機能に適応した種・群集から選定することから、調査にあたってはおもに注目種・群集の生育・生息条件となっている基盤環境の連続性や変動性が維持される機構などについて調査する。
特殊性の注目種・群集は、特殊な環境や比較的小規模な環境を特徴づける種・群集や陸水域生態系では地理的に隔離された種・群集から選定することから、調査にあたっては対象とする注目種・群集の生育・生息条件と局所的な基盤環境が維持される機構などについて調査する。
また、回遊魚などでは遡上行動・能力の測定実験などにより得られる知見が、流況の変化に伴う影響や保全措置の効果などに関する予測に有効な場合がある。このような実験的な調査手法も必要に応じて選定する。
なお、調査の実施段階で新たに注目種・群集に相当する生物に関する情報が得られた場合や、逆に選定した注目種・群集の情報が得られなかった場合は、注目種・群集、調査、予測などの手法の再検討をおこない、追加して調査を実施する場合はその時点から必要な期間を実施する。
調査から予測への流れは図-5に示したとおりである。予測に際し、調査結果を注目種・群集の生態的特性や注目種・群集が指標する生息・生育環境の特性として基盤環境要素の状況、他の生物種・群集との関連の面から整理しておく。
図-5 注目種・群集に関する調査から予測の流れ
3)生態系の機能に関する調査
生態系の機能については、前年度報告書で生息・生育空間の形成・維持、物質の生産・循環などのスコーピング段階で把握する機能について示している。影響予測でもこれらの機能を対象とする。
生態系のそれぞれの機能はほとんどの生態系が有しているが、機能自体に程度の差はあることや構造に比べ捉えにくいことから、当該生態系(類型)で特に重要な機能が明らかな場合や、基盤環境要素などを通じて機能が把握できる場合に影響予測の対象とする。
陸水域生態系の機能に関する調査は、対象とした機能について水質、底質、動植物などの環境要素を関連づけて整理し、機能に関わる生態系の構成要素と機能自体を指標する物質生産量や水質浄化量などを調査項目とする。
対象とした機能を指標する生物種・群集が見いだされる場合は「注目種・群集に関する調査」における典型性の視点から当該種・群集を注目種・群集として選定して影響評価をおこなう。
生態系の機能に関して、数値モデルによる予測をおこなう場合は、予測する項目に適した予測範囲・計算条件・パラメータなどを十分検討し、必要なデータが的確に得られるように調査項目を選定する。
なお、定性的な予測あるいは事例解析的な手法によって予測をおこなう場合でも可能な限り客観的・定量的な調査方法を選定する。
(3)調査時期・期間の設定
[1]注目種・群集の調査時期の設定
調査対象となる種・群集については、植物では成長が活発な時期や開花・結実時期など、動物ではその生活史の段階に応じて生息場所や餌資源など選好する環境を変化させることが多い。このため調査時期や回数は繁殖、渡り、移動、回遊や、変態などに伴う生息環境の違いや、注目種・群集と関係する種・群集の生態など、生活史における各段階の生息状況が把握できるよう四季にとらわれることなく設定する。特に繁殖期などの生活史のごく一時期のみ陸水域を利用する種については、その時期を見落とすことなく把握できるように設定する。
また、影響評価項目としての「動物」「植物」と「生態系」の調査を同時に進める場合などで、「動物」「植物」の調査により注目種・群集に選定すべき種・群集が新たに確認されたときは、その段階で生態系の構造と機能や構成要素について再検討をおこない、生態系の視点からの調査を追加して実施する。
基盤環境要素については水位や水量・流量、水質の変化、表流水による攪乱などの日変動、季節変動および年変動など、要素の変動性が十分に把握できる時期、回数を含むよう調査時期を設定する。
生態系の機能に関する調査時期の設定
[2]生態系の機能に関する調査は、生物種・群集の繁殖地、採餌地、休息地などとして重要な基盤環境要素の形成・維持、物質循環、水質の浄化などなどの機能を維持する上で重要な時期で、生物と関連した物理化学的な情報がその変動を含めて定量的に把握できる時期を設定する。すなわち機能に関わる生態系の構成要素の変化や機能自体を指標する測定項目などの把握に必要な時期、回数を設定する。
○調査時期・期間設定の留意点
河川では基盤環境の季節変動とともに年変動があり、調査対象とした年が必ずしも平年の状況を示していない可能性があることや、河床材料や河畔植生など動植物の生息・生育基盤となる環境要素も変動することから、単年度の調査では把握できない環境要素があることに留意する。
なお、調査期間で捉えることのできない異常気象などに伴う基盤環境の突発的な変動については、気象や流況に関わる記録や資料などをもとに過去の発生状況や頻度、規模を把握し、当該陸水域の特性把握の参考にする。
3-3 陸水域生態系の影響予測
(1)影響予測の方法
陸水域生態系に関する影響予測は、事業の実施により対象となる陸水域生態系の場の成り立ち、連続性、変動性などの特性に対してどのような影響が及ぶかとの視点で、基盤環境要素や、水域に依存した生物種・群集などの構成要素、陸水域生態系の特性を指標する注目種・群集、構造・機能などの事業による変化を把握することを通じておこなう。
生物種・群集への影響を予測するには、事業の実施に伴う基盤環境要素の変化と生物種・群集の変化の関連をどのように捉えるかが重要である。しかし、基盤環境要素と生物の生理・生態との関連が解明されているものは少なく、また、生物種・群集の影響の程度も成長段階や生活史の段階によって異なることがある。このため基盤環境や生物種・群集そのものが消失するといった影響が著しい場合以外は、基盤環境要素の変化に対して起こる生物種・群集の変化の定量的な影響予測手法は少ないのが現状である。
生態系への影響との視点では定量的に捉えることができる事象は、一部の環境要素の一部の側面に過ぎないことや、定量的な調査(測定など)が可能な対象であっても定量的な予測は不可能な場合があることに留意する必要があり、調査および予測の項目や手法は、定量的な調査や予測が可能なことと、既往の知見などから定性的に予測することを分けて設定する。
予測項目は、影響要因と影響を受ける構成要素の関連の検討を通じて把握される影響の中から、特に水環境との関連性に着目して選定する。
対象とする項目やその手法は、着目した影響の流れが明らかで、影響要因が時間的・空間的にどのように環境要素に作用するか把握できるものを選定する。
予測は、生物やその生息生育の場そのものの改変や、水質、水位、水量などの基盤環境要素の変化などの構成要素に一次的に及ぶ直接的な影響と、直接的な影響が構成要素間の相互関係を通じて副次的または時間の経過により徐々に基盤環境や生物に及ぼす変化などの間接的な影響を対象におこなう。
予測をおこなう際には、スコーピング段階で整理した影響要因-環境要素の関連をもとに予測条件を設定し、直接的な影響については定量的な予測に努める。特に生物や場そのものの改変など位置や範囲を把握できるものについては改変面積や消失率を明らかにする。また、間接的影響については構成要素の相互関係などから、既存の知見や類似事例、専門家の意見を参考とした予測とともに可能な限り定量的な予測をおこなう。予測に用いる手法についてはその選定理由、適用条件、範囲を明らかにする。
陸水域生態系の予測については確立された予測手法はないが、影響を受ける環境要素のうち流量、流速、水質などの物理的・化学的環境要素などの変化については可能な限り定量的な予測をおこなう。
湖沼やダム湖などでは物質生産や物質循環、生物種の現存量や組成などに関して、数値モデルを用いる手法のほか、簡易な計算による手法もあり、機能に関する予測などで活用する。
定量的な予測手法がある環境要素の種類と予測モデルの概要は、前年度報告書に示した。対象となる予測項目は水位、流速・流向、河床形状、水質(SS,pH,BOD,COD,DO,栄養塩、塩分、水温など)、植物プランクトン、動物プランクトンなどがある。
数値モデルや簡易な手法による計算で予測をおこなう場合には、現況のデータやモデルのパラメータを既存資料や現地調査のほか、実験的手法などによって取得する。その際には代表性のあるデータを取得することや正確な現況再現をおこない、モデルとパラメータとの妥当性を検証する。特に数値モデルによる予測をおこなう場合には予測する将来条件の検討も十分におこない、事業による影響が反映されるようにパラメータを設定する。これらの予測条件、パラメータおよび予測結果の妥当性・不確実性などについてはわかりやすく明示する。
1)基盤環境と生物群集に関する影響予測
基盤環境と生物種・群集に関する予測は、事業に伴う基盤環境や生物群集、あるいは相互の関係の変化から、陸水域生態系の構成要素、水平構造、縦断的・横断的な基盤環境の構造に対する影響を概括的に予測する。
直接的な影響については改変を受ける類型(生態系)とその構成要素や構造、改変の程度を事業計画に関する図面や類型区分図を参考に予測する。間接的影響については以下に示した項目(例)について、調査結果や既存文献などにより得られる生物種の生態に関する知見をもとに予測する。
・基盤環境要素の変化に伴う類型自体の変化や予測地域内の類型の存在割合などの変化
・水環境などの基盤環境要素の変化に伴う生物種・群集の変化
・基盤環境要素の相互関係や、生育・生息空間の存在状況の変化
・食物連鎖など生物種・群集の種間・群集間の関係の変化
・主要な生物種の行動圏・分布域や生活史における水域の利用状況の変化(特に繁殖環境の存在状況の変化)
移動能力が高い動物で事業による人為影響の拡大により周辺の類型(生態系)へ逃避、分散することが考えられる場合は、逃避・分散先の生態系の構成要素や構造、機能の変化も予測する。
また、環境保全措置により新たな水域や緑地がつくられる場合については、その基盤環境要素の特性や近傍の同様の生態系に生育・生息する生物種・群集を参考に、構成要素や構造、機能を予測する。
2)注目種・群集からみた生態系への影響予測
注目種・群集からみた生態系への影響予測は、事業の実施による「水環境」の変化を主体として、選定された注目種・群集の生育・生息の変化を予測し、それらの結果を通じて生態系の構成要素・構造や、機能への影響を含めて予測する。
注目種・群集の影響予測は、予測条件として整理した影響要因をもとに、注目種・群集が消失するといった直接的影響や、その生育・生息環境や相互関係にある生物種・群集の変化に伴う注目種・群集の変化の程度を予測する。
注目種・群集への影響を通じた他の構成要素、構造、機能への影響の把握は、注目種・群集が上位性、典型性、特殊性などのどの視点から生態系のどのような特性を指標しているかとともに、影響の伝播経路などを参考におもに以下の視点について検討する。
・注目種・群集と同様の栄養段階や生活史、生活形を持つ種・群集の変化
・注目種・群集と捕食-被食、共生・寄生、競合、すみわけなど相互関係にある種・
群集や、生育・生息空間が注目種・群集と関わりのある種・群集の変化、特に食物網の変化
・注目種・群集が関わる生態系の機能の変化とその機能に関係する種・群集の変化
なお、既存知見や研究成果を援用して影響を予測する際には、注目種の生理・生態特性や生息・生育場所の利用特性が地域によって異なる場合があることに留意する。
3)生態系の機能に関する影響予測
生態系の機能に関する予測は、おもに事業の実施に伴う機能の低下(または向上)、変化について把握する。しかし、生態系の機能は様々な基盤環境要素と生物が複雑に関係しており、多くの機能については、確立された予測手法はない。このため予測は機能に関連する生態系の構造として、基盤環境と生物種・群集の関連や、典型性の視点から指標される注目種・群集の予測結果、さらに他の環境影響評価項目の予測結果なども援用しておこなう。
前述のとおり、生態系の機能の予測には数値モデルを使う手法がある。海域生態系では生態系の有する機能の仕組みを簡略化して計算を可能にした数値モデルによる予測が用いられることがあり、陸水域でも海域と隣接した汽水域や水塊として捉えられる湖沼やダム湖についてはこのような数値モデルを積極的に活用する。
数値モデルによって予測できる機能は現在の知見では物質生産、物質循環、浄化量などに限られており、他の多くの機能については定性的な手法、あるいは事例解析的な手法によって予測をおこなう。その場合でも予測結果の根拠 となる基盤環境要素の変化については可能な限り定量的に示すことが重要である。
(2)予測地域の設定
予測地域は、事業特性や地域特性をもとに、事業の実施により基盤環境要素や生物種・群集へ影響が及ぶと想定される「評価する上で重要な類型区分(生態系)」の存在する範囲を対象とする。
直接的影響は事業による改変区域、間接的影響は改変区域の周辺を基本として設定するが、陸水域生態系の場合は、流水を介して上下流の構成要素と連続性があることや、遡上・降河する生物や生活の場が水域から陸上へと変わる生物では生活史の段階によって利用する類型が異なることに着目し、直接的影響についても改変区域の上下流区間や陸域側を含めた、より広い範囲を設定する。
河川の分断による生物の移動阻害は、河川全体や海域生態系にも影響を与える可能性がある。特に対象河川の延長が長い場合は、調査地域よりも予測地域を広く設定する場合が考えられる。
(3)予測時期の設定
予測対象時期は、対象とするそれぞれの類型(生態系)で、事業に伴う影響が最大となる時期として工事中の代表的な時期、および生態系が安定する時期として供用後一定期間経過した時期を基本として設定する。特に直接的影響については基盤環境の直接改変をおこなう工種の終了時や施工の完了時を予測時期とする。また、対象となる注目種・群集の生活史で、影響が最大に見積もられる季節も対象時期とする。なお、影響要因が徐々に大きくなることが予想される場合や、周期的な洪水や増水の発生が考えられる場合は、時間的な影響の変化が捉えられるように、複数回の予測時期を一定の間隔で設定する
環境保全措置を講じた場合は、それぞれの措置が効果を発揮し生態系が安定すると想定される時期までを対象とする。
なお、前記した「生態系が安定する」とは、事業特性や当該生態系の特性、特に植物群落の遷移段階などにより捉え方が異なる。陸水域生態系では、河川を例にとると流量や流速の変動や、浸食、堆積による河道の変動により基盤環境要素が刻々と変化することや、河畔植生は洪水の発生など不安定な基盤環境要素の上に成立・維持されている。これらのことにみられるように、陸水域生態系では場が変動することが本来の生態系の姿である場合があるので、「安定」には変動する場の状態が維持されていることを含んで考える必要がある。