1.中間報告書における検討範囲
2.陸域生態系の調査・予測・評価手法に関する記述
3)環境影響評価の項目及び調査・予測・評価手法の選定
(5)調査・予測・評価手法の選定
調査・予測・評価手法の選定にあたっては、地域概況調査の結果、類型区分の検討結果、生態系の構造や機能に関する概略検討結果などに基づき、生態系の多様性や機能などをできる限り把握し、事業による影響の予測・評価がより正確にできる手法を選定する。
[1]調査手法の選定
生態系の調査では、上位性・典型性・特殊性の視点から抽出された注目種・群集に関する調査を主体に行うことになる。
調査手法の選定では、対象事業が及ぼす影響の範囲と注目種・群集の生息場所、行動圏や生活史などとの関係を考慮し、現況の把握及び影響の予測・評価に必要な調査項目、手法、範囲、時期などを検討する。また、事業計画が十分進んでいない段階に調査計画を立案するため、調査計画は幅広くかつ柔軟に設定する必要がある。
調査すべき情報は、評価する内容により異なるが、注目種・群集の生態及び他の動植物との関係や生息場所との関係が中心となり、生息場所に関しては、土壌、地形、植生などについての調査が重要である(表2-15、16)。
なお、注目種・群集に関しては、「植物」「動物」の環境影響評価段階における調査の結果なども受け、追加・見直しなどを行う必要がある。
[2]予測手法の選定
事業計画による各種の影響要因が及ぼす注目種・群集への直接・間接的な影響、さらに注目種・群集の調査で得られた結果より把握される生態系の構造・機能などへの影響に対して予測を行うこととなる。
予測する影響の種類としては以下のようなものが挙げられ、予測する影響の種類に応じて有効な予測手法を選定する。その際、可能な限り定量的な予測手法を用いるものとする。予測対象時期は、工事中、存在・供用時などの影響の発生時期に応じて設定する。
予測する影響の種類の例:
・注目種・群集への対象事業の直接・間接的な影響
(生息場所、餌資源、繁殖、移動・分散、個体数・現存量などへの影響)
・注目種・群集により把握される生態系の構造・機能などへの影響
(生物の多様性、食物連鎖、栄養段階、環境の形成・維持など)
[3]評価手法の選定
対象地域の生態系に及ぼす影響の回避・低減に関する評価及び環境保全措置検討の基本方針について、対象事業における代替可能性の幅なども踏まえ、事業者の見解を示す。
評価手法の選定段階では、予測手法の選定で述べたように、どの注目種・群集を対象とするのか、また、生態系の構造や機能のどの部分を対象とするのかが重要となる。現状では、生態系の多様性や機能の価値を総合的に表現できる方法は確立されていない。対象地域の生態系をどのように捉え、何を指標として評価を行うか、言い換えれば、事業者が対象地域をどのように判断するかを明確に示すことが評価に際して重要な点である。また、事業者が対象地域の特性を理解した上で、注目種・群集の生息・生育が損なわれないこと、生物種・群集の多様性が損なわれないことを考えることが、より良い評価につながると考えられる。評価手法の選定にあたっては、これらのことを十分検討して手法の選定を行う必要がある。
評価手法選定にあたっての検討項目としては、以下のものが考えられる。
評価手法選定にあたっての検討項目の例:
・陸域生態系の評価方法とその視点
(生物の多様性、食物連鎖、栄養段階、環境の形成・維持など)
・予測範囲より広い生態系に及ぼす影響
・影響の回避、低減の評価
(複数案の比較検討、実行可能なより良い技術の検討など)
・環境保全措置の効果・影響の評価
・環境保全に関する基準または目標との整合性など
表2-15 注目される植物種・植物群落についての調査項目例
植物種
[1]分布、生活史に関する調査
・対象地域における分布
・対象地域での繁殖状況の調査
[2]生育量に関する調査
・個体数や被度・密度に関する調査
[3]生育環境に関する調査
・基盤環境に関する調査
気象、地形、地質、土壌、水質、水文条件など
・生育環境としての植生に関する調査
出現する群落、生育地の植生構造、共存する植物種、主要競争種(帰
化種)の有無など
・その他の生育環境に関する調査
管理の状況、人為的影響を受けなくなってからの年数など
[4]生態に関する調査
・植物季節(フェノロジー)、種子の生産量など
[5]その他
・生育可能地などの存在・配置に関する調査
など
植物群落
[1]群落の分布に関する調査
・植生図
・植生図に表せない群落の分布の把握
[2]植生調査
・対象地域における群落の種組成
[3]群落の構造に関する調査
・階層構造、現存量(葉・花・果実等)、ギャップの分布・大きさ
[4]立地環境に関する調査
・基盤環境に関する調査
気象、地形、地質、土壌、水質、水文条件など
・その他の立地環境に関する調査
管理の状況、人為的影響を受けなくなってからの年数など
[5]生物群集に関する調査
動植物の生息種や動植物の生息場所となる要素の分布訪花性昆虫等
[6]その他
・群落の遷移や更新に関する調査
・潜在的に群落の成立が可能な地域の存在・配置に関する調査
など
表2-16 注目される動物種・群集についての調査項目例
[1]分布、生活史に関する調査
・対象地域における分布
・対象地域での定着性(季節的移動)と繁殖に関する調査
[2]生息数に関する調査
・個体数や密度(密度分布)に関する調査
全域または主要環境別
[3]食性に関する調査
・主な餌種(採食空間)
餌種構成比(生活史のステージや季節性)
・主要餌種の分布と密度
季節性も考慮
[4]その他種間の関係に関する調査
・主要捕食者の密度
・主要競争種(帰化種など)の密度
・その他
託卵・寄生などの寄主の密度など
[5]生息環境に関する調査
・基盤環境に関する調査
気象、地形、地質、土壌、水質、水文条件など
・生息環境としての植生に関する調査
植生構造、現存量など
・その他の生息環境に関する調査
管理の状況、人為的影響を受けなくなってからの年数など
[6]環境の空間的利用に関する調査
・行動圏調査によりどの環境をよく利用しているかなど
・空間的利用の季節的変化
[7]重要な資源の分布に関する調査
・餌資源・繁殖環境などの分布や量など
など
3.中間報告書における「今後の検討課題」
初年度の本検討会の議論では、環境影響評価法において新たに導入されたスコーピング(環境影響評価の項目・手法の選定)の段階に焦点をあてて、その効果的な運用を支援するための技術的な指針をとりまとめた。
次年度は、生物の多様性分野における「地形・地質」「植物」「動物」「生態系」の各項目に関する調査・予測・評価段階の効果的な手法について、検討を進める。また、生態系については、初年度に検討を開始した陸域生態系、海域生態系に加えて、陸水域生態系についての検討を開始する予定である。
次年度以降の検討に際して、重要な課題と考えられる点を以下に掲げる。
1)科学的、客観的な調査・予測・評価に関する事項
・既存の調査・予測・評価手法や研究成果のレビューと課題の整理
・的確な予測評価を行うために必要な調査手法
・定量的な予測評価の導入と定性的な予測評価との組み合わせ
・予測評価におけるモデル的な考え方の導入
・適切な評価の視点、尺度の設定の考え方の整理
・生物の多様性分野の各項目間における調査・予測・評価の連携
・大気環境・水環境等に関する環境負荷の生物への影響の予測評価手法
2)生態系の影響評価に関する事項
・上位性、典型性、特殊性の視点から注目される種
・群集を通じて生態系への影響を予測評価する手法
・調査・予測・評価段階における基盤環境の類型区分と解析手法
・物質循環やエネルギーフローに着目して生態系への影響を予測評価する手法
・生態系の持つ有用な資源価値や多面的な環境保全機能に関する影響評価
・生態系の動的な側面(常に変動を繰り返しながら動的に維持される性質、台風や地滑りなどのレアイベント(稀に起こる事象)の影響も大きいことなど)の考慮
3)適切なデータの整備・解析・表現・蓄積・活用技術に関する事項
・広範な主体にとってわかりやすいデータの解析・表現や図書(準備書・評価書)作成の方法
・GIS(地理情報システム)や衛星画像の活用による基盤情報の整備手法
・希少種に関するデータの取り扱い
4)環境保全措置の考え方と適用技術に関する事項
・より良い環境配慮につなげるための適切な環境保全措置(ミティゲーション)の考え方の整理
・自然環境の特性や重要性に応じて適正な環境保全措置を適用するための技術的な指針
・生態系の動的な側面を考慮した環境保全措置のあり方、アダプティブ・マネジメント(順応的管理)の考え方の導入
・予測の不確実性を補う事後調査のあり方と事後調査結果の活用
さらに効果的な環境影響評価の実現のため、環境影響評価を支える基盤の強化に関して、以下の点も重要な課題であるとの指摘がなされた。
1)植生、動植物の分布、生息状況や基盤環境等に関する最新の基礎的データ、生態系区分や生物群集タイプごとの動植物目録、生態的特性等に関するデータベ ースの整備と公開
2)食性、生活史、生息に必要な環境条件、環境変化による影響等の生態に関する基礎的な知見の蓄積
3)多様な生態系における長期的なモニタリングデータの収集、蓄積と公開