現在、生態系を定量的に評価する手法として、世界中で様々なものが提案され、その中では環境アセスメントにおいて既に有効に活用されているものもある。我が国においても、近年、HEP、HGM、IFIMなど生態系に関わる定量的評価手法が検討されはじめている。
定量的評価手法を環境アセスメントで利用する場合、まだ基礎的な情報で不足しているものが多いため、評価の目的や影響を受ける生態系、環境要素、保全措置の対象に応じて、どの手法が適しているかを比較・検討できるように整理する必要がある。
ここでは、定量的評価手法の開発が進んでいる米国において環境アセスメントでの実績が認められているBEST、HEP、HGM、IBI、IFIM、WETをピックアップし、各々の特徴を概略的に把握できるように、表1に整理した。また、定量的手法の中には環境アセスメントへの適用の研究・試行が進められている様々な理論があるが、その中で有効な手法としての可能性のあるものの例として、PVA、生態系モデル、ニューラルネットワークについて「背景、特徴、適用種、概要、留意点」を整理した。
表1 手法の整理項目
1. | 公表と開発 |
[1]手法開発者名(または組織名): 最初の開発者名または組織名 | |
[2]公表年: 文書により公表された年 | |
[3]公表文献名: 研究論文名、図書名など | |
[4]開発の背景: 社会的背景や関係する法制度の整備状況など | |
2. | 概要 |
[1]目的: ミティゲーション、生息地評価、保全管理など | |
[2]適用可能な環境: 陸域、陸水域、海域など | |
[3]評価対象: 評価の対象(種の生息場所、生物群集、水質浄化機能など) | |
[4]評価項目: 評価に用いる項目や変数(生息密度、種組成、生産量など) | |
[5]表現方法: 評価結果(総合評価結果)の示し方 | |
[6]特徴: その手法特有のメリット、評価視点など | |
3. | 手順:実際の作業ステップに沿って、図表などを用いて解説 |
4. | 留意点:潜在的な問題点、応用する際の留意点など |
既存の定量的評価手法の評価 |
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1 公表と開発 | ||||||||||||||
[1] | 手法開発者名 (または組織名) | |||||||||||||
MEC Analytical System Inc. | ||||||||||||||
[2] | 公表年 | |||||||||||||
1991年 | ||||||||||||||
[3] | 公表文献名 | |||||||||||||
MEC Analytical System Inc. (1991) Production and Valuation Study of an Artificial Reef off Southern California, Final Report submitted to Los Angels and Long Beach. | ||||||||||||||
[4] | 開発の経緯 | |||||||||||||
新たに造成された人工漁礁のミティゲーション(環境造成効果)を評価するためにカリフォルニア沿岸域で適用された。専門家の主観に頼らず、フィールドで収集した生物調査のデータを客観的に評価するための手法として開発された。 | ||||||||||||||
2 概要 | ||||||||||||||
[1] | 目的 | |||||||||||||
沿岸生息地の評価、ミティゲーション | ||||||||||||||
[2] | 適用可能な環境 | |||||||||||||
浅瀬沿岸域 | ||||||||||||||
[3] | 評価対象 | |||||||||||||
生息数、餌の供給源、産卵数、生産量 | ||||||||||||||
[4] | 評価項目 | |||||||||||||
魚種、海域類型(評価場所)ごとにおける、成魚の餌資源、成魚数、幼稚仔魚の餌資源、幼稚仔魚数、産卵数、生産量 | ||||||||||||||
[5] | 表現方法 | |||||||||||||
図-1のように、評価対象種、対象海域(評価場所)、評価項目の3次元マトリクスから総合評価値を求めて表にする。 | ||||||||||||||
[6] | 特徴 | |||||||||||||
・ 評価に適切な対象種(魚種)は、専門家会議などで選定される。 |
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3 手順 | ||||||||||||||
(a) 対象海域を選定する。 | ||||||||||||||
(b) 各海域ごとに重要な生物種を選定する。一方の海域で選択種が生息しない場合、 その海域の評価は著しく低くなってしまう。そのために、比較対象となる2つの海域(例えば人工漁礁と砂底域)において、同価値の魚種を対応させて"組(ペア)"として選択することが望ましい。 |
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(c) 成魚の餌資源、成魚数、幼稚仔魚の餌資源、幼稚仔魚数、産卵数、生産量の6項目に関し、調査を実施し、得られたデータを数値化する。各海域で調査を実施し、各海域の相対的な評価値を算出する。 |
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(d) 評価のための計算手順は、大きく3つのレベルに分かれている。 | ||||||||||||||
(e) レベル1: |
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(f) レベル2: |
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(g)レベル 3: |
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(h) 評価 |
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4.留意点 | ||||||||||||||
・ 陸水(特に止水面)への応用の可能性も考えられる。 |
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主な参考文献 | ||||||||||||||
中田秀昭(1998)得点法における生物環境評価、沿岸の環境圏(平野敏行編)、pp.856-862.(株)フジ・テクノシステム、東京. |
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Habitat Evaluation Process (HEP) |
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1 公表と開発 | ||||||||||||||
[1] | 手法開発者名 (または組織名) | |||||||||||||
U.S. Fish and Wildlife Serviceなどアメリカ内務省関連組織 | ||||||||||||||
[2] | 公表年 | |||||||||||||
1980年 | ||||||||||||||
[3] | 公表文献名 | |||||||||||||
U.S Fish and Wildlife Service (1980) Habitat evaluation procedures (HEP). Washington, D.C: Division of Ecological Service ESM 101-103. |
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[4] | 開発の経緯 | |||||||||||||
1969年のアメリカ国家環境政策法(NEPA法)により生態系の定量化評価が定められ、その対応として、客観性、普遍性のある科学的な評価手法として、Fish and Wildlife Service, U.S. Army Crop Engineersなどの複数組織の協力により、HEPの概念とガイドラインを1980年に発表した。 |
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2 概要 | ||||||||||||||
[1] | 目的 | |||||||||||||
野生動物の生息地に関するアセスメント、ミティゲーション | ||||||||||||||
[2] | 適用可能な環境 | |||||||||||||
陸域、陸水域、海域 | ||||||||||||||
[3] | 評価対象 | |||||||||||||
対象種の生息場所 | ||||||||||||||
[4] | 評価項目 | |||||||||||||
野生生物の生息に関わる様々な要因 (例:植生、密度、種組成など) | ||||||||||||||
[5] | 表現方法 | |||||||||||||
生息地を質×空間×時間の3次元的視点から数量化した累積的HU (Habitat Unit)で表現する。累積的HU=生息地の質×空間量×時間量 |
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[6] | 特徴 | |||||||||||||
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3 手順 | ||||||||||||||
(a) | HEPの実行の前に、必要なフィールド調査、分析などの時間、資金、人的資源など を設定、準備する。 | |||||||||||||
(b) |
評価対象種を選定し、既存資料などから、対象種に関する生息、個体数などに関す る情報を収集する。生息要因に重要である情報を判断し、現地調査にて収集する。 |
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(c) |
既存資料、現地調査から生息環境適合度(HSI)を作成する.HSIにおけるSIとは、最適指数を示し、通常は0~1で表現する。SIが1であれば、評価対象種の生息数は最大となる。例えば、A種の生息要因1(V1)が草本生産量とすれば、生息適合指数(SI)と草本類生産量の関係は、図-1のような表で表現できる。ここでは、草本生産量が35 g/m2 以上で、A種の生息数は最大となり、もし対象地における草本生産量が30g/m2であるとすれば、V1のSI値は、0.6となる。 |
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(d) | 同様に、生息地の評価に必要と考えられる環境要因(V2~Vn)のSI2~ SInを算出する。 | |||||||||||||
(e) |
HSI値を計算する。HSI値は一般的には、以下の4式において算出する。どの式においてHSI値を算出するかは、各要因間の関係により異なる。 |
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[1] 幾何平均法 HSI = (SI1 x SI2 x SI3 x … SIn )1/n |
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(f) | 生息地評価点の計算.生息地評価点(Habitat Unit:HU)は、「HU=HSI×対象面積」を用いて質量的に評価する。 | |||||||||||||
(g) | 対象地(ie.カバータイプ)ごと、直接影響域と間接影響域ごと、異なる空間にて、HUを算出する。 | |||||||||||||
(h) |
影響評価においては、複数の空間のみならず、時間的要素も含めた累積HUを算出する。例えば累積HUは、工事開始時点、供用開始時点、供用中、供用終了時点、事業終了時点などで設定する。 |
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(i) |
実際のHEPの分析期間は通常で60年から100年である。 |
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4 留意点 | ||||||||||||||
・ |
種間関係が考慮されていない。 |
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・ |
種選定が難しい。 |
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・ |
SI値の算出過程などにおいて、専門家の主観的な判断に依存することも多い。 |
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・ |
既存のHSIモデルがない場合は、膨大な生態学的調査を必要とする。 |
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・ |
アメリカにおける既存のHSIモデルの事例は、魚類、鳥類などに偏る傾向にある.両生類、爬虫類、昆虫類での事例が非常に少ない。 |
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・ |
生態系全般に応用できる手法である。一般的にはModified HEPと呼ばれる。様々な評価手法がHEP形式で作成されている。 代表例は、ペンシルバニア州にて開発されたPAM HEP(Pennsylvania Modified 1980 Habitat Evaluation Procedure)や、リモートセンシングによりHSIの代替としてTSI(Tract suitability index)を用いるWCHE(Wildlife Community Habitat Evaluation)、ルイジアナ州沿岸域で開発されたWVA(Wetland Value Assessment Methodology)などがある。 |
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主な参考文献 | ||||||||||||||
田中章 (1998) 生態系評価システムとしてのHEP、「環境アセスメントここが変わる」 (島津康男他編)、pp.81-96. 環境技術研究協会、大阪. |
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Hydrogeomorphic Approach (HGM)) |
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1 公表と開発 | ||||||||||||||
[1] | 手法開発者名 (または組織名) | |||||||||||||
US Army Engineer Waterways Experiment Station |
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[2] | 公表年 | |||||||||||||
1995年 |
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[3] | 公表文献名 | |||||||||||||
Smith, R. D., Ammann, A., Bartoldus, C., and Brinson, M. M. (1995) An Approach for Assessing Wetland Functions Using Hydrogeomorphic Classification, Reference Wetlands, and Functional Indices. Wetland Research Program Report WRP-DE-9. |
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[4] | 開発の経緯 | |||||||||||||
アメリカ 404 Regulatory Program [Clean Water Act (水質保全法) の一部に定められた事項]により、アメリカ国内の湿地、河川などの水質、並びに周辺環境を物理的、生物的、化学的に保全するように定められたため、湿地を中心とする水域のミティゲーション対応策として開発された。 |
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2 概要 | ||||||||||||||
[1] |
目的 |
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湿地の機能評価、ミティゲーション |
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[2] |
適用可能な環境 |
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湿地 |
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[3] |
評価対象 |
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湿地の機能.代表的な機能例としては、表面流出貯水機能、表面流出貯水機能、エネルギーの散逸機能、地表土壌水の貯水、栄養塩サイクル機能、生息地の空間的構造機能、脊椎動物の分布と生産量維持機能、生息地の空間的構造の維持などがある。 |
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[4] |
評価項目 |
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湿地機能ごとに異なるが、例えば、Brinson et al. (1996)では、河岸に位置する湿地を評価する場合、その機能を決定する変数は41項目ある。これら評価変数は、主に種の構成を中心とした生物的要素、地下水面の変動などの物理的要素、それに地形や植生パッチの形状を表現する地理的要素に大きく区分けできる。 |
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[5] | 表現方法 | |||||||||||||
機能容量の指標であるFCI (機能容量指数)にて表現される.FCIは、様々な変数によって表現されるが、通常では、「FCI= 現在の機能容量/参照基準の機能容量」で求められる。FCI値が参照基準と同様であれば 1.0を示し、参照基準に程遠ければ、0に近づく。 |
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[6] |
特徴 |
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3 手順 | ||||||||||||||
(a) |
湿地のクラス分類 |
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(b) | 評価対象となる機能の選択 | |||||||||||||
・ 物理的、化学的、生物的属性により、湿地の機能は異なるが、全ての機能を評価するのは難しいため市民の関心度の高い機能などを選択する。 |
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(c) | Functional Capacity Index(FCI):機能容量指数の計算 | |||||||||||||
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(d) | 機能容量(FC)の計算 | |||||||||||||
機能容量は、指数のみでは比較が不可能なために、面積を考慮した機能容量(Functional Capacity : FC) を計算しする.「FC = FCI x 対象となる湿地面積」であり、一つの計画に多数の湿地が含まれているときは、Partial Wetland Assessment Area(PWAA)として扱う。 |
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4 留意点 | ||||||||||||||
・ |
自然資源保全局(The Natural Resource Conservation Service)によって開発されたInterim HGMなど、HGMの手法を取り入れて開発されている。 |
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・ | 異なる地方、異なるクラスに属する湿地同士は比較できない。 | |||||||||||||
・ | HEPと類似した点も多い。 | |||||||||||||
・ | J-HGMと呼ばれる日本型のHGMの構築が進んでいる。 | |||||||||||||
主な参考文献 | ||||||||||||||
Brinson, M. M., Hauer, F. R., Lee, L. C., Nutter, W. L., Rheinhardt, R. D., Smith, R. D., and Whigham, D. (1996) A guidebook for application of hydrogeomorphic assessments to reverie wetlands, Technical Report WRP-DE-11, US Army Engineer Waterways Experiment Station, Vicksburg, MS. |
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Index of Biological Integrity (IBI)) |
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1 公表と開発 | ||||||||||||||
[1] | 手法開発者名 (または組織名) | |||||||||||||
Karr, J.R. | ||||||||||||||
[2] | 公表年 | |||||||||||||
1981年 | ||||||||||||||
[3] | 公表文献名 | |||||||||||||
Karr, J. R. (1981) Assessment of biotic integrity using fish communities. Fisheries 6(6):21-27. |
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[4] |
開発の経緯 |
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Biological integrity(生物学的保全性)の概念は、陸域におけるbiodiversity(生物多様性)に類似した概念として水域で使われてきた。アメリカでは、1975年にClean Water Act(水質保全法)が改正されたことにより、水質などの影響評価にBOD等の化学的属性のみでなく、生物種の分布量を考慮した水質評価の指標が重要となり、その概念が再認識されて、多様性指標としてのbiological integrityを指数化したものがIBIである。 |
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2 概要 | ||||||||||||||
[1] | 目的 | |||||||||||||
陸水域の環境評価 | ||||||||||||||
[2] | 適用可能な環境 | |||||||||||||
河川、湖沼、湿地 | ||||||||||||||
[3] | 評価対象 | |||||||||||||
生物の状態(Biological condition) | ||||||||||||||
[4] | 評価項目 | |||||||||||||
魚類の種数や個体数、水生昆虫の種数や個体数など、魚類生態などに関連する項目 |
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[5] |
表現方法 |
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生物種の分布量を維持できる環境の状態がBiological integrityの判断基準であり、IBIでは、水質、水量、生息地の構造、種間の相互関係、食物連鎖の特性などを評価し得点付けし、その合計値である総合IBI値として表現する(例:表-1)。 |
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[6] |
特徴 |
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3 手順 | ||||||||||||||
(a) | 評価の準備段階 | |||||||||||||
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(b) | 測定可能な属性を選択する | |||||||||||||
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(C) | サンプル取得後の、IBI式による解析の実施 | |||||||||||||
各項目(例:汚染に耐久性のある種群の割合)を5点、3点、1点で点数付ける。 | ||||||||||||||
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IBIは、これら複数の基準点の合計とする.「IBI=各基準点の合計」。 |
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4 留意点 | ||||||||||||||
・ | 修正すれば海域での適用も可能である。 | |||||||||||||
・ | 標準化された野外での生物調査が必要となる。 | |||||||||||||
・ | 開発影響場合のモニタリングなどには有用であるが、予測能はない。 | |||||||||||||
主な参考文献 | ||||||||||||||
Karr, J. R. and Chu, E. W. (1997) Biological Monitoring and Assessment: Using
Multimetric Indexes Effectively. EPA 235-R97-001. University of Washington, Seattle,
WA. Karr, J. R. (1991) Biological integrity: a long-neglected aspect of water resources management, Ecological Applications, 1:66-84. |
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Instream Flow Incremental Methodology (IFIM)) |
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1 公表と開発 | ||||||||||||||
[1] | 手法開発者名 (または組織名) | |||||||||||||
主にU.S. Fish and Wildlife Service | ||||||||||||||
[2] | 公表年 | |||||||||||||
1982 | ||||||||||||||
[3] | 公表文献名 | |||||||||||||
Orth, D. J. and Maughan, O. E. (1982) Evaluation of the Incremental Methodology for Recommending Instream Flows for Fishes, Transactions for the American Fisheries Society, 3(4):413-445. | ||||||||||||||
[4] | 開発の経緯 | |||||||||||||
流量評価には、主に必要最小流量を判定する手法が用いられてきた.1970年NEPA法の制定に従い開発の代替案を評価する必要性が生じ、河川の流量増減分変化を定量化する手法が必要とされるようになった。IFIMは生物種の移動、産卵、子育てに対する生息場を河川流量を関数として定量化する目的で開発された。 |
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2 概要 | ||||||||||||||
[1] | 目的 | |||||||||||||
河川の物理的、生物学的属性の評価 | ||||||||||||||
[2] | 適用範囲 | |||||||||||||
河川 | ||||||||||||||
[3] | 評価対象 | |||||||||||||
河川・河道構造、魚類の生息地 | ||||||||||||||
[4] | 評価項目 | |||||||||||||
水深、流速、低質、魚類の隠れ場となる物質など | ||||||||||||||
[5] | 表現方法 | |||||||||||||
IFIMは、システム解析技術を取り入れた一般的な問題解決法の総称であり、物理的環境のシュミレーション(PHABSIM : Physical Flow Incremental Methodology))を用いて数値表現する。 |
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[6] | 特徴 | |||||||||||||
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3 手順 | ||||||||||||||
IFIMは、問題の特定、計画の策定、実施、代替案解析、問題解消の5つの段階を経て実施される。IFIMの構成と実行は図-1のような手順で実施される。 |
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・ | PHABSIMは、生息場を流量の関数としてどのように計算するかの概念である(図-2参照)。 | |||||||||||||
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4 留意点 | ||||||||||||||
・ | PHABSIMを計算するためのコンピュータープログラムなどが開発されている。 | |||||||||||||
・ | 多目的に取水、流量管理シミュレーションとしても応用できる。 | |||||||||||||
・ | 流量-WUAの関係のみであり、周辺環境などは、評価の項目に含まれない。 | |||||||||||||
・ | 魚種の移動、種相互関係は無視されている。 | |||||||||||||
主な参考文献 | ||||||||||||||
Stalnaker CB, Lamb BL, Henriksen J, Bovee KD, and Bartholow J. (1994) The Instream Flow Incremental Methodology: a primer for IFIM. National Ecology Research Center, Internal Publication. National Biological Survey. Fort Collins, Colorado, U.S.A. 99 pp. |
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Wetland Evaluation Technique (WET) |
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1 公表と開発 | ||||||||||||||
[1] | 手法開発者名 (または組織名) | |||||||||||||
US Army Engineer Waterways Experiment Station | ||||||||||||||
[2] | 公表年 | |||||||||||||
1991年 | ||||||||||||||
[3] | 公表文献名 | |||||||||||||
Adamus, P. R., Clairain, E. J., Smith, R. D., and Young, R. E. (1987) Wetland Evaluation Technique (WET): Volume II: Methodology. Development of the Army, Waterways Experiment Station, Vicksburg, MS. NTIS No. ADA 189968. |
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[4] | 開発の経緯 | |||||||||||||
アメリカ 404 Regulatory Program [Clean Water Act:水質保全法の一部に定められた事項]により、アメリカ国内の湿地や河川の水質、周辺環境を物理的、生物的、化学的に保全するように定められ、湿地の機能評価を定量的に可能にする評価法として開発された。 |
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2 概要 | ||||||||||||||
[1] | 目的 | |||||||||||||
湿地の機能評価、ミティゲーション | ||||||||||||||
[2] | 適用可能な環境 | |||||||||||||
湿地 | ||||||||||||||
[3] | 評価対象 | |||||||||||||
湿地機能の4つの観点(1)社会的重要性、(2)沈殿物や有毒物の保持、物質移動などの機会を寄与する観点(3)レクリエーション地としての有効性、(4)生息地としての資質のうち、単一、または複数の観点を対象として評価する。 |
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[4] | 評価項目 | |||||||||||||
Adamusら(1991)は湿地の機能としての4つの観点をそれぞれ9項目のFunction(湿地が有する機能)と2項目のValue(人間が必要とする価値)の計11項目に分類した。Functionは、(1)地下水の涵養、(2)地下水の排出、(3)表面流水の置換、(4)底質の安定化、(5)底質における有毒物、(6)栄養塩の除去と移動、(7)生産物の移動、(8)水圏生物の多様性、(9)野生動物の生息地であり、Valueは、(1)レクリエーション、(2)ユニークさとしての価値である。ただし、最近は、機能評価項目に絶滅危惧種の生息地としての機能、魚介類の生息地機能(当初は野生動物の多様性とは鳥類のみ示していた)も含まれるようになり、価値には科学教育的価値や景観的価値を含むことも多い。 |
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[5] | 表現方法 | |||||||||||||
Complete evaluation summary form (評価結果要約シート)にて評価する機能や価値に対して高評価(High)、中評価( Moderate)、低評価(Low)で示す(表-1)。 |
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[6] | 特徴 | |||||||||||||
生態学的、社会的に有用な機能について、各評価項目ごとにアンケート形式により回答を得る。 | ||||||||||||||
3 手順 | ||||||||||||||
(a) | 社会的重要性、機会、有効性、生息地指標、4つの観点の中から、どの評価を実施するかを決定する. | |||||||||||||
(b) | 各観点における評価手順 | |||||||||||||
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4 留意点 | ||||||||||||||
・ | 結果表示が3段階のみのために、評価は単純である。結果は、中評価(Moderate)になることが多い。 | |||||||||||||
・ | 環境変化予測には適さず、現況評価のみで利用できる。 | |||||||||||||
・ | 取り扱う変数が多い.アンケート形式であるために個人の主観に依存する。 | |||||||||||||
主な参考文献 | ||||||||||||||
Adamus, P. R., Clairain, E. J., Smith, R. D., Young, R. E.. (1987) Wetland Evaluation Technique (WET): Volume I: Literature review and evaluation rationale. Technical report WRP-DE-2, US Army Engineer Waterways Experiment Station, Vicksburg, MS. 279pp. |
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既存の生態系評価に用いられるモデルの評価
Population Viability Analysis (PVA) |
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背景 | ||||||||||||||
Minimum viable population (MVP)の概念をShafferが1981年に発表した.その後、Shafferは、PVAという名のもとで基礎概念を1990年に発表した。当初は、人為的影響による個体群変化のみを確率論的過程で表現していたが、Boyce(1992)は、決定論的過程と確率論的過程の両過程を含むように修正案を発表した。 |
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目的 | ||||||||||||||
種の絶滅リスクを求めることにより、種の生存可能性を改善する。短期的な目的としては、絶滅リスクを最小化することであり、長期的には、種の進化的変化の潜在力を維持させるための諸条件を促進することにある。 |
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適用種 | ||||||||||||||
一般的に全生物種で適用が可能 | ||||||||||||||
概要 | ||||||||||||||
PVAの手続きは、最小存続可能個体数(Minimum viable population : MVP)の決定と密接な関係がある。また、与えられた生活史パラメターに基づいて個体数変動を多数回シミュレーションし、環境の変動などによって絶滅する確率を求める。最近の事例では、主な絶滅を引き起こす原因として、(a)生息地の破壊と分断、(b)汚染や気候変動、(c)乱獲、(d)外来種の導入が取り上げられることが多い。 また絶滅を引き起こす原因により、作成されるモデルの内容、手順も大きく異なる。ただし、共通の特徴として、主に(1)個体群動態のモデル化、(2)シナリオによる解析、(3)生活史の解析がある。 |
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(1) | 個体群動態のモデル化 | |||||||||||||
対象個体群の生活史(出生率、死亡率、性比、移動距離など)を全て調べるのは、不可能に近いために、個体群動態は単純な形でモデル化する。 |
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(2) | シナリオによる解析 | |||||||||||||
生活史に影響する人間活動(狩猟など)や開発に伴う環境変化(例:伐採、分断化)などをシナリオとして選択する。 狩猟影響を例にすると、禁止、夏期のみに狩猟を解禁、全期解禁など複数のシナリオを作成し比較する.開発の影響評価では、事業実施区域全域の開発、10%のみ開発、50%開発などの複数のシナリオを作成する。 |
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(3) | 生活史の解析 | |||||||||||||
開発などにより、減少した個体の生活史の変化(性比、幼獣生息率)などを調査し、情報を収集し、感度解析(理論的な数学的解釈)によって分析を実施する。 |
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留意点 | ||||||||||||||
・ |
種(個体群)の絶滅確率計算に最も応用されている手法である。複雑な長期間のシナリオの反復計算を可能にする表計算ソフトや、地理情報システムに連結したソフトなどが既に多く市場に出回っている。 |
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・ |
PVAのモデル構造は、いくつかの要因によって限定される.絶滅を引き起こす原因は、数多く考えられるが、実際には、データの利用、収集の可能性、種または個体群の生活史的な特徴を考慮し、分析をおこなう。 |
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・ |
調査、パラメーターの設定などに、長期的な準備期間を要する. |
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主な参考文献 | ||||||||||||||
Shaffer, M. L. (1981) Minimum population sizes for species conservation, BioSicience, 31:131-134. | ||||||||||||||
Shaffer, M. L. (1990) Population viability analysis, Conservation biology, 4:39-40. | ||||||||||||||
Boyce, M. S. (1992) Population viability analysis, Annual Review of Ecology and Systematics, 23:481-506. | ||||||||||||||
ニューラルネットワーク |
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背景 | ||||||||||||||
ニューラルネットワークは人間の大脳の情報処理メカニズムを解明したり、そのまま再現しようとする試みの中から生まれた。 これら既存の研究から、生態系の評価ではパターン認識や制御、その他の諸々の工学で扱う最適化問題に至るまで、その解である非線形関数を近似する手段の一つとして位置付けられるようになった。 |
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特徴 | ||||||||||||||
・ | きわめて大量のデータを取り込むことが可能である。 | |||||||||||||
・ | 定量的なデータのみならず曖昧性(ファジー)を伴うデータの取り扱いも可能である。 | |||||||||||||
・ |
自己組織化能力により、コンピュータに学習すべきデータを充分に与えてやれば良く、問題を解決するためのプログラムを構築する必要はない。 |
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適用種 | ||||||||||||||
一般的に全生物種で適用が可能 | ||||||||||||||
概要 | ||||||||||||||
ニューラルネットワークは、図 - 1で示すように、人間の神経細胞に相当する疑似ニューロン、軸索、シナプスからなっている。入力層のニューロンから中間層のニューロンに複数のシナプスを経て伝播する信号電位が加算されて、しきい値を越えるとニューロンが興奮して次の層へ出力を生じる。この複雑なニューロン間のシナプス結合と出力の電力などを数式化したものがニューラルネットワーク解析である。数式の構築は、工学研究において様々な手法や変形型が提案されている。生態系評価において、松原(1994、1998)などが代表例である。 |
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留意点 | ||||||||||||||
ニューラルネットワークでシステム構築をするために、ネットワークの学習データとしての環境調査データが必要である。多くの現地情報がなければ解析できない。 |
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主な参考文献 | ||||||||||||||
松原雄平 ・野田英明(1994) ニューラルネットワークによる生態系環境評価システムの開発、海岸工学論文集、41:1136-1140. |
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松原雄平 (1998) ニューラルネットワークを利用した環境評価モデル、沿岸の環境圏(平野敏行編)、pp.863-869. (株)フジ・テクノシステム、東京. |
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生態系モデル |
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背景 | ||||||||||||||
1980年頃から食物連鎖などに重きをおいたモデルの研究が強調され、物質代謝に関するパラメター値の取得に関する調査や実験も精力的に行われてきた。生態系モデルでは、複雑な生態系の仕組みの中から、これら食物連鎖や物質循環などを中心に生態系の特徴的な機能のみを抽象化し数値シミュレーションにて解析する。 |
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特徴 | ||||||||||||||
・ | 海域での開発が特に進んでいる。 | |||||||||||||
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低次生態系モデル、高次生態系モデル、藻場生態系モデル、浅海域生態系モデルなど開発が進んでいる。 |
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適用種 | ||||||||||||||
一般的に全生物種で適用が可能 | ||||||||||||||
概要 | ||||||||||||||
干潟や藻場のように生物生産や水質浄化などの重要な機能を有する沿岸域では、特に物質循環を考慮することにより、基礎生産や水質浄化機能を予測できる低次生態系モデルは、かなり実用的なレベルにある。図-1では、生態系の一部の物質循環を検討したモデルの例を示す。 |
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長期的に高次栄養段階の生物自体の挙動や生態系の変化を統括的に予測できる高次生態系モデルの重要性は認識されている。しかし労力を伴い、また活用面での課題は多く残っている。生活史モデルを用いた高次生態系モデルの環境影響評価の手段は、図-2の例が示すような手順となり、各手順(1)~(7)の概要は以下のようである。 |
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(1) |
開発計画案を分析して、開発が環境に与える影響の具体的内容を明らかにする。 |
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(2) |
評価対象となる種、生息地などを明確にする。 |
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(3) |
生態学的知見、影響の受けやすさ、既存の情報量などからモデルの代表となる種を選択する。 |
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(4) |
代表種が全生活史を通じて、どのような環境で生活し、個体数維持のための必要条件などを現地調査、文献調査で詳細に調べ、生活史、動態モデルの基礎となる生態学的基礎情報を明らかにする。 |
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(5) |
代表種の成長、生存などにかかわる環境要因を抽出して、開発によって生じるそれらの影響伝達を示す。 |
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(6) |
代表種と環境要因との関係や環境要因間の関係の定量化を行い、生活史モデ |
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(7) |
代表種の選定から検討内容を踏まえて、種別の予測結果より開発行為が種の生活に与える影響を評価する。 |
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留意点 | ||||||||||||||
・ | 様々な生態学的な特徴を組み込むことが可能なモデルである。 | |||||||||||||
・ | 特に沿岸域でのモデルの作成、実用化が進んでいる。 | |||||||||||||
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主な参考文献 | ||||||||||||||
堀家健司 (1998) 生態系モデルによる評価、沿岸の環境圏(平野敏行編)、pp.863-869. (株)フジ・テクノシステム、東京. | ||||||||||||||
中田喜三郎 (1993) 沿岸生態系モデル、環境流体汚染(松梨順三郎編)、pp.165-231.森北出版 | ||||||||||||||
鈴木雅晴・三村信男・塚田光博 (1999) 3次元生態系・水質モデルによる東京湾の水質改善予測、海岸工学論文集、46:1011-1015 |